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真夜中の公園で


[の] 日常生活

それは秋風がひんやりと冷たい月明かりの夜でした。
もう夜中の1時を過ぎていたでしょうか。その日はたまたま帰りが遅くなったのです。自宅のすぐ近くに小さな公園があり、その脇を通るのが一番の近道なので、私は普段通りそこを歩いていました。
すると、前方にある公園のベンチに何やら人影が見えます。黒い皮のジャケットにジーンズ。暗くて顔はよく見えませんが、10代後半?20代前半の若い男性のようです。
こんな遅くに1人で何やっているんだろう、何だかイヤだなぁ、と不気味になり、できるだけそちらを見ないようにして足早に通り過ぎようとしました。でも途中気になって、チラっとその方角に目をやると、向こうもじっとこちらを見ているではありませんか。もう背筋がぞっとしました。
うそでしょー、きっと気のせいだよね、そうだよね、自分にそう言い聞かせながらも公園とは目一杯反対側に身を寄せて、いっそう足を早めたのです。

するとどうでしょう。あろうことか彼はすっと立ち上がり、私の方に向かってくるではないですか!
真っ黒いシルエット、そして胸元に掲げたその手には、なんと銀色にキラリと光るものが!!
私はもう心臓バクバクでした。「刺される、きっと刺される。間違いない」
全身の細胞という細胞が強張り、それとは裏腹に、疲れているはずの頭が高速回転します。
左手は駐車場で行き止まり。このまま一気に走り抜けるか、それとも来た道を引き返すか、いや無理無理、すぐに追いつかれてしまう。じゃあどうする?何か武器は?せめて傘でも持っていたらよかったのに。どうする?どうする?どうする私!?
犯人、いやその男が間近まで来て、もういよいよ走り出すしかないと決意したそのとき、黒い影から声が落ちてきました。
「すみません。これってどうやって開けるんですか?」


......へ? 今なんと?

あまりに穏やかなその声に意表をつかれ、一瞬何を言われたのか理解できませんでした。恐る恐るその手元に目をやると、銀色に光るものの正体は、なんとコンビーフの缶詰だったのです。
私は全身の力が抜けて、ボーゼンとしていたのでしょう。怪しいその影は続けて説明し出しました。
「猫に餌をあげようと思って、そこのコンビニで買って来たんですけど、これのあけ方がわかんなくって」

はあぁぁーーー、コンビーフ、猫。ああそう、コンビーフねぇ。極度の緊張状態から一気に解放され、私は可笑しくて可笑しくて笑い出したくなりました。
そして、「あのね、これはね、こうクルクルっとね」と、必要以上に丁寧に説明してあげたのでした。
その黒い影は熱心に私の手元を見ていましたが、缶を開け終えると「ありがとうございました」と礼儀正しくお礼を言い、再び暗い公園の中に戻って行ったのです。

なんともやれやれ?な一件でした。後から冷静に考えてみれば、いったい猫はコンビーフを食べるのだろうか?とか、そもそも野良猫に餌を与えてはダメじゃない、などというまっとうな考えも浮かんだのですが、あの時はそんなことを考える余裕はありませんでした。

しかし暗いニュースが多い世の中、このようなシチュエーションにおいて、彼の手にあったものがナイフである可能性と缶詰である可能性と、いったいどちらが高いのでしょうか。こうして笑い話にできたのはたまたまラッキーなことであって、まかり間違えば今私はここにいなかったかもしれません。そう考えると本当に恐ろしいことです。油断は禁物、あらためて身が引き締まりました。

善良な青少年の皆さん、夜の公園で猫に餌をやるのはやめましょう(いや、昼間でも)。
そして、通い慣れた道であっても夜道の一人歩きは要注意。多少遠回りでも明るい道を歩きましょうね。

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