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無愛想なクリーニング店を選ぶわけ


[の] 日常生活

Kというクリーニング店とのつきあいは、かれこれ5年になります。
実はこのK店の前に、Mというクリーニング店を2年間ほど利用していたのですが、ちょっとしたストレスがあって店を切り替えたのでした。

1.技術、2.利便性、3.価格、4.店員の対応
クリーニング店を選ぶときの決め手は、概ねこの4点ではないかと思うのですが、K店もM店も、技術や価格に差はありません。利便性の点ではむしろM店のほうが勝っていました。では何が問題になったかというと、そう「店員の対応」です。店員といってもどちらも個人経営なので、店主の対応といったほうがいいでしょうか。
K店は無愛想で、M店は愛想がよかったのです。え?逆では?と思われるでしょうか。いえいえ、私は無愛想なK店を選んだのです。

K店の無愛想さぶりは相当なものです。「この人はなんで客商売をやろうと思ったのか?」と不思議になるほどでした。
しかも無愛想なだけでなく、かなり失礼なのです。例えば、ある年の暮れのこと、洗い物を持参した私は店主に聞きました。「冬休みはいつからですか?」と。ごく普通の質問です。
すると店主はにこりともせず、面倒くさそうな顔で「そこに書いてありますけど」と、カウンターの下を指差したのです。心の中の「いちいち聞くなよ。見えないのかよ」という呟きも聞こえてきそうな気配でした。これにはさすがに寛容な(?)私もムッとして、「そのくらい言えよ。話せないのかよ!」と心の中で応酬しておきました。
そんなわけで、あまり客がつかなかったのではないかと推測されます。1年と経たない内に駅前の店舗を閉め、集配サービスオンリーの仲介クリーニング店になったのでした。現在、毎週日曜日の朝10時に通ってもらっています。

一方、愛想のよいM店のほうは、これまた愛想がよすぎなのです。
主に店内は奥さんが仕切っており、ご主人はよく表に出て掃除などをしているのですが、このご主人が私にとってのストレスだったのです。
低血圧の私は朝がかなり弱いほうなのですが、背後から大きな声で「おっはよーございまーっす!!」と不意をつかれることしばしばで、その度心臓に少なからずダメージを受けてきたわけです。まだ前方からならいいのですが、背後からはいけません。
しかもこのご主人、観察力がするどい。当時、私は水筒にコーヒーを入れて会社に持参していました。いわゆるマイブームってやつです。すると「水筒持ってどこに出かけ?いいですねー!」と一言、マイブームが去ってからは「最近水筒無いんですねー!」と一言。夜会えば「遅かったですねー、気をつけてー!」。「今日は早かったですねー、お疲れさまー!」

ある意味、見上げた商売人魂なのかもしれません。しかし毎日となるといい加減うんざりです。体温の上がり切った日中に会うならまだしも、ご主人に会う時間帯は朝早くか夜遅くなわけで、このグッタリした時間帯にあのテンションの高さに付き合うのは、正直きついのです。いつの間にか「今日は会わずに済みますように」と祈る自分がいて、やがて、わざわざ遠回りして通勤するまでに至ってしまいました。
しかし地元の人ですから、どこに出没するかわかったものではありません。せっかく遠回りした先でばったり出くわした日には、もう動物園から逃亡したライオンに出会ったくらいにドッキリしたものでした(ちょっと大げさ)。

つまり、無愛想なK店を選んだのは、そういうことです。

もともとクリーニングというのは、プライベートな汚れ物を扱うわけですから、必要以上に距離を縮めたくありません。しかも集配となればなおさらです。日曜の朝10時といえばまだ顔も洗っていない時もあり、そんな時に愛想よく世間話をされるのは、真っ平御免被りたいものです。
そういう意味で、K店は基本的にダメダメな店ではありますが、私にとってはちょうどよいともいえます。

無愛想なKの店主は、今も相変わらず無愛想です。
思えばこの5年間、業務以外の件で交わした会話は3回だけ。いずれも印象的だったのでよく覚えています。
「玄関先で猫がうんちをしてましたよ」(確かにされていた)
「灯油缶はフタをしていたほうがいいですよ」(確かに開いていた)
「盛り塩の上にバッタが乗ってますよ」(確かに盛り塩もしていたし、バッタもいた)

......うーむ。話題の切り口からして、やはり未だ客商売が向いているとは思えません。
でもだんだんと丸くはなってきました。例えば集配専門に切り替えた当初、洗い物が少い日は「1000円以上の単位でお願いします」とブスっとされましたが、その内「いくらからでも結構です」と腰が低くなり、年末には「冬休みは○日から○日になります。来年もよろしくお願いします」とちゃんと挨拶ができるまでになりました。
さすがに経営は大変なのでしょう。不器用なりにも変わりつつある姿に、過去の無礼は水に流せるというものです。

しかし願わくば、これ以上愛想よくなりませんように。

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