営業事務は多くの企業に存在し、標準化・システム化の対象になりやすい仕事です。営業活動のうち、比較的定型的な業務が中心ではありますが、バリエーションが多いという特徴を持ちます。そこで今回は、これをマニュアル化する際に、ぜひ押さえておきたいポイントをご紹介します。
営業事務とは?
営業事務とは、営業活動に付随して発生する、定型的な手続きを指します。例えば見積、受注、契約、納品、請求などといった業務です。
なお、事務系の作業については、Tips No.33「事務系の作業マニュアルを作成するには」で解説しましたが、今回の「営業事務」は、定型的とはいっても作業の単位ではなく、複数の作業と判断からなる業務の単位になります。営業事務では、定型作業による組み合わせのバリエーションが多く、そこに判断が伴います。
さて、バリエーションの多い業務ほど、基本を押さえることが大事です。
もしビジネス経験のない新人が営業事務を行おうとするとき、必要なのはバリエーションを覚えることではなく、基本のしくみを理解することです。では最低限何を理解しておく必要があるかについてご紹介します。

営業ステップとの紐づけ

多くの場合、営業事務は営業活動の結果発生することなので、営業ステップに照らして解説するのがわかりやすいでしょう。 例えば図の見込客発掘からアフターフォローまでのステップは、比較的高額な商品の新規開拓営業の活動イメージです。このとき、見積作成や受注処理、契約締結、納品手配、納品書作成、請求書発行などといった事務が、どの段階で発生するかを把握できるようにします。
商取引に関する概念
盛り込みたいことの2つめは、商取引に関する概念です。
掛取引
企業間取引では掛取引を行いますが、これはビジネス経験がないとぴんと来ないかもしれません。

掛取引とは、一定期間に販売した商品やサービスの代金を、後日まとめてお客さまに請求し支払ってもらう、つまりは後払いの信用取引です。
掛取引では、商品を受け渡した時点で取引が成立するということ、そして将来代金を受け取る権利(債権)が売掛金、代金を支払う義務(債務)が買掛金、という基本をまず押さえる必要があります。
支払方法
営業事務ではリース契約、ローン、支払サイト、でんさい(電子債権)といった支払いに関係する言葉が頻出します。これらも新人にはあまりなじみのない言葉だと思います。実際に「リース」と「ローン」を混同しているケースもよく見受けられますので、しくみと違いを解説します。

期間と期日
営業事務では、期間と期日の概念を正確に理解する必要があります。特に締め日や計上日の概念は基本です。
締め日
例えば、得意先との一定期間(1か月間など)の取引を締めて、その代金をまとめて請求するための締め日もありますし、仕入先との一定期間の取引を締めて、その代金をまとめて支払うための締め日もあります。

取引先や販売するモノによって、締め日が異なる場合もあれば、締め日から締め日までの期間が異なる場合もありますので、注意が必要です。
計上日
計上日とは、発生した取引を帳簿に記録する(あるいはシステムへ登録する)日のことです。「取引の発生日=計上日」が原則ですが、取り扱うモノ・サービスによって計上基準が異なるため、どのタイミングで取引発生ととらえるかが難しい場合があります。
特に新人がよく混同するのは売上計上日と請求日です。同様に仕入計上日と入金日を混同している場合もあります。
営業事務は会計原則にのっとって正しく情報を記載・登録しないといけませんので、正しい数字を記載することはもちろん、それを記載する日付の重要性も伝えましょう。
さまざまな宛先
営業事務では、宛先にもバリエーションがあります。例えば、商品の納入先は「使用現場」、納品書の送信先は「管轄の事業所」、請求書の宛先は「本社」、売上の計上先は「支店」など、送付先や処理先がそれぞれ異なるケースがあります。誤配送や誤請求を防ぐためにも注意が必要です。
帳票と関連法令
発注書、請書、契約書、納品書、請求書など、営業事務では多様な帳票を使用します。
また紙媒体だけでなく、データ形式、さらには取引先のシステム上でのやりとりも含まれます。帳票は取引を証明する重要なエビデンスであることを伝え、保管・保存のルールも明らかにしておきましょう。また、関連する法令等(以下)も押さえます。
- 電子帳簿保存法
- インボイス制度・消費税法
- 個人情報保護法(個人情報を取り扱う場合) など
*その他、業種業態によってさまざまな規制があります。
なお、帳票の整理については、以下のTipsも参照してください。
Tips No.61「電子取引データの管理方法を整理する」
Tips No.62「マニュアル中の帳票に注意」
Tips No.63「業務用帳票(紙・PDF)の流れを追う方法」
例外的な処理への対応
通常処理とは異なる例外的な処理が多いのも営業事務の特徴です。
例えば、お客さま指定の納品書で送る、お客さま独自のシステムを使って請求するといった「例外処理」。
また、今回限りの特別割引、キャンペーン価格の適用などといった「特別処理」、このほか、輸送中に商品が破損するなどといった「異常対応」もあります。
これらはいずれも通常処理とは異なる処理ですが、営業事務マニュアルを作る場合は、これらをいったん標準処理から切り分けて整理します。
→「業務の整理と可視化」実践講座」では、この分岐する処理を整理する方法についても具体的に解説しています。
以上のほかにも、業種や業態によって、マニュアルに盛り込むべき内容はあります。
ただし基本的に、営業事務マニュアルを作成する際には、まず営業ステップに沿って解説すること。そして、商習慣や会計原則、関係法令などの知識やしくみを押さえましょう。
さらに、例外的な処理については、標準処理と切り分けて整理することを意識してください。基本を理解できれば、業務のバリエーションに対応できるようになるはずです。
Youtubeでも関連情報を解説していますので、あわせてご覧ください
author:上村典子