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企業と人材 第38巻870号2006.01.10

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【OJTを成功させる!第6回(最終回)~OJTのツールを整備する~】

<以下掲載内容>

【1.OJTを効果的に運用するためのツール】

■OJTの仕組みに不可欠なツール
この連載では、各企業でOJTがうまく機能しなくなってきている現状を捉え、それを再構築する方策を検討してきた。特にOJTの仕組みに着目し、考察を加えた。
仕組みを重視する理由は、仕組みがあったほうが、より少ない工数で効率良くOJTを進められるからだ。また仕組みが準備されていれば、職場ごとのバラつきが少なくなり、平均的な指導レベルも確実に上げることができる。
OJTの仕組みは、目的や手順などの枠組みを決めることに加え、OJTを実施するためのツールもセットすることで、より機能するようになる。ツールが提供されることで、指導担当者はより充実した指導を行うことができるようになるし、OJTを進めるために必要な準備も最小限で済ませることができる。 そこで今回は、OJTの仕組みを機能させるためのツールについて考えていくことにする。

■OJTツールの分類
OJTのツールでまず思い浮かぶのは「OJT計画書」と「OJTマニュアル」だ。ただし、これらは不可欠のものではない。目標管理制度を活用したOJTでは「OJT計画書」は準備されないし、新人に対するOJTでも「OJTマニュアル」は作成せずにOJTリーダーの研修を実施する企業も多い。
逆にこの2つのツールだけではなく、その他のシート類や指導用の教材など、多様なツールが準備されているケースもある。そこで、図表〓にOJTの仕組みで活用されている多様なツールを整理してみた。 まず「シート類」はOJTの計画や進捗を管理するためのツールと位置づける。「OJT計画書」が代表例だが、計画書はなくても何らかのものがあったほうが管理が容易となる。次の「手順書」も可能であれば準備したい。一般に「OJTマニュアル」と呼ばれるもので、OJTの指導担当者が参照する、OJTの仕組みの概要や指導手順を解説したツールを意味している。
案外準備する対象から洩れがちなのが「指導教材」だ。これは、教える内容そのもの記述された文書や仕事の道具などを指している。各部門や職種ごとに個別性が高いこともあり、そこまで手が回らないことが多いが、これが整備されているかどうかは指導の質に大きく影響する。最後に補助的なものであるが、「案内文や報告書」も定型的なものがあるとよい。

■時間を短縮することへの貢献
OJT制度を導入した企業で比較的よく聞かれる問題がある。それは「計画書を作っただけで終わってしまった」「非常に手間がかかるわりには肝心な指導は進まない」というものだ。
いろいろな原因があるとは思えるが、「OJT計画書」など、義務づけられているシートが煩雑で、実際の場面で活用しづらくなっている場合にこれらの問題が生じ易い。OJTのツールは、本来、より工数を少なくし、効率を上げるためのものであるはずだが、それと逆行する結果になってしまっているわけだ。
OJTをやろうとすれば、実際に教えている時間以外にも、準備や管理といった多くの工数は発生する。質の高い指導を行うためにはこうした時間は必要ではあるが、それ自体が何かの効果を生んでいるわけではない。
OJTのツールは、本来はきめ細かく確実な指導を促すことに主眼が置かれていると思われるが、同時に、この余分な時間を最小化することに貢献できるものでなければねらった効果は発揮されない。

【2.教えるためのツール~指導教材~】

■教材指導とは
指導教材とは、教えるときに用いる全てのもの指している。これには「業務マニュアル」や「テキスト」など、教えようとする内容が記述された文書と、仕事の道具や材料、サンプル、あるいは演習ツールなどが含まれる。
例えば、電話の受け方を実技も含めて指導する場合、電話の応対マニュアル、電話機、内線番号表、メモ用紙と筆記用具、そして練習用のケースなどとなる。集合研修と異なるのは、その職場で実際に使われているものを用いて指導する点にある。
もし、その職場で電話専用のメモ用紙があればそれを準備するし、電話メモを社内ネット上に登録するルールになっていたり、顧客からの電話は必ず顧客データベースで本人確認する必要があれば、パソコンの環境も準備しておく。
このように指導教材とは、教えるときに学習効果を高めるための一切のツールを指す。準備にあたっては、理解を容易にするためと、実際に近い環境にするためといった2つの視点で検討するとよい。

■仕事の内容を記述した文書
指導教材で準備が大変なのは、教える内容を記述した文書だ。まず「販売マニュアル」やISOの「作業指示書」など、仕事の内容を記述したマニュアル類があれば、それを教材として用いる。ここでは、こうしたマニュアル類を総称して「業務マニュアル」と呼ぶことにする。
「業務マニュアル」が整備されていれば、特別な準備はせずともすぐに指導かかることができる。もちろん、指導内容のバラつきも生じ難い。特に新人の指導や標準作業の指導を確実に行うには、「業務マニュアル」は必須アイテムと言える。
しかし「業務マニュアル」があっても、初めての人が読むには詳細で専門的すぎたり、逆に大まかな手順と基準値程度しか記述されいなかったりと、指導教材としては使いづらいものも少なくない。
そうした場合、教わる側が理解するのにちょうどよい量と内容にまとめられた「テキスト」を別途に準備する必要が出てくる。ここでいう「テキスト」とは、指導内容だけをわかりやすくまとめた指導場面専用の解説資料を指しているが、覚える要素の多く複雑な仕事ほど、その必要性は高い。
しかし、こうした「テキスト」を作ろうとすると、30分程度の指導で用いるものでも、半日以上を費やしてしまうことがある。そのため、適切な指導教材が蓄積されてない企業では、指導担当者がやる気があっても途中で息切れしてしまい、OJTの仕組みも沈滞してしまいがちとなる。

■指導教材の整備状況が組織の実力
「業務マニュアル」にせよ「テキスト」にせよ、整備し維持していくには膨大な時間と労力が必要となる。逆に言えば、これらの指導教材を整備できているかどうかが組織の実力であり、それが人材の育成状況にも大きく影響を与えている。例えば「業務マニュアル」を整備したことで、新人営業の発受注までの平均期間が短縮したとか、派遣社員の定着率が大幅に改善したといったケースはよく聞かれる。 本気でOJTを機能させようと思えば、この「指導教材」の整備に本腰を入れて取り組んでほしい。
その場合、同じものを重複して作らないように、まず必要なものを洗い出し、どこで何を作るかを仕分けしておくようにする。全社的に共通性の高いものであれば、教育セクションが中心になって会社で1つだけ作るようにする。「基本行動ガイドブック」のようなものがこれにあたる。
まとめて作ればある程度のコストも投入でき、充実したものを作ることも可能となる。最近では印刷された冊子だけでなく、上司がパソコンを用いて解説するスライドや、独習も可能なイントラネット上でのwebページとして開発する企業も増えてきた。
一方、職場ごとの個別性の高いものは、各職場で制作することになる。このとき、完全なものを一気に作ろうとせず、数年かけて地道にコツコツ作っていくことが完成に近づくコツのようだ。
まず、必要な教材のリストだけを作成する。その上で指導頻度の高いものから順次手がけていく。また1つの教材を作る際も、当面は目的と基本手順だけ、次に注意事項を埋め、その後細かな条件分岐を加えていくという具合に、段階的に充実させていくのが望ましい。
完全な教材になっていなくても、指導場面で補足したり、本人にメモを取らせたりといった対応が可能なので、粗いままでも教材としての活用は開始できる。活用をはじめれば動機づけにもなり、作業も進みやすくなってくる。

【3.教え方のマニュアル~指導手順書~】

■教え方のマニュアルの種類
前章で取り上げた指導教材は、学ぶ側に配付する資料だった。それに対しここで取り上げる「指導手順書」は、教える側のマニュアルを指している。具体的には次の3つが含まれる。

  1. OJTの考え方や一般的な教え方の手順
  2. 特定のOJTの仕組みの具体的な指導手順
  3. 個々の仕事や作業の指導手順

このうち、1と2は一般に言う「OJTマニュアル」にあたり、3は「レッスンプラン」とか「指導標準」などと呼ばれるものが該当する。これらは別々の媒体として作ってもいいし、1つの冊子にまとめても構わない。また、目標管理制度を活用したOJTのような場合は、独立したマニュアルではなく「目標管理マニュアル」の一部として記述されていることもある。

■OJTマニュアル
「OJTマニュアル」では、通常、次のようなことを記述していく。

  • OJTの必要性や会社としての思想
  • 対象者の定義と指導担当者の役割
  • 教え方の基本や関わり方の留意点
  • 仕組みの概要、スケジュール、指導項目
  • シート類の作成方法や記入例
  • 指導教材の概要と活用方法
  • 状況別の対応の仕方、Q&A

「OJTマニュアル」を利用する指導担当者には、やるべきことを手早く知りたいという人や、指導自体が不安なので詳しく知りたいという人など、いろいろなタイプが存在する。そのため、ページの構成にも工夫が必要となる。
まず、全体像や概要を俯瞰できるページを必ず準備する。そこでは概念図や作表によって、最短時間で必要最小限のことが把握できるようにする。これだけでも十分活用できるものとなるが、余力と必要性に応じて個々のテーマを詳しく文章で解説したページも作っていく。
このように、OJTマニュアルでは情報を階層化してやることが使いやすさのポイントとなる。一目見ただけで取り組みが開始でき、必要があれば詳細情報や関連情報にあたれるという作り込みとなるが、それにはwebページでの開発がやや優位性があると思われる。

■個々の仕事の指導手順書
OJTリーダーの研修では、1つの指導項目を取り上げて「レッスンプラン」を作成する演習を行うことが多い。研修で「レッスンプラン」を作成してみることは、効果的な指導の仕方を研究するという意味での有効性はある。しかし、これもきちんと作ろうとすると1項目に数時間かかることもあり、全ての指導項目について準備するのは現実的ではない。
そこでまず、指導項目の一覧だけを作り、それに指導目標、指導の際の強調点あたりを書き込んでいく。また、指導時に準備する指導教材も書き込んでおくと便利だ。
その上で、重要性が高く、教え方によって理解や習得状況に差が生じやすい作業を絞って、詳細の指導手順書を作成していく。そこには、教える順序や教え方のポイントのほか、例題や理解度を確認するための質問項目なども盛り込んでおくと、指導の品質を高いレベルで統一することができる。

【4.計画と進捗管理のためのツール~シート類~】

■OJT計画書について
OJTでは、もともと計画性が非常に重視されていた。そのため、OJTを行う際には実施内容と日程スケジュールを含んだ「OJT計画書」が不可欠のものとされた時期がある。確かに場当たり的な指導とならないようにするには、「計画書」はあったほうが望ましい。しかし、指導担当者にとってはこの「計画書」づくりが大きな負担となっていた。
例えば、3カ月間のOJT計画を作ろうとしても、仕事の予定が3カ月先まで見通せている職場はあまり多くない。そのため、指導の計画を考えること自体が難しく、何とか計画は組めたとしても、かなりの確率でズレが生じてしまう。
計画と実際のズレが激しいとOJTに対するモチベーションを下げてしまうし、遅れを指摘されたり計画書の修正を強要されたりすると、いよいよ苦痛ばかりが増えてしまう。
少し極端ではあるが、これらの状況を捉えると、「OJT計画書」を重視したことがOJTを阻害していたようにも思えてくる。

■シート設計する際の視点
とは言え、OJTを計画的に進めること自体の重要性は否定できない。だとすれば、「計画」に対する考え方を見直してみる必要性がありそうだ。例えば、指導担当者がOJTの指導予定と仕事がぶつかった場合、仕事を優先するのが普通の選択のはずだ。そうなると、OJTのほうは仕事の合間を縫って、常に臨機応変に進めていくことが求められる。
こうしたOJTのあり方を現実的に検討し、それを反映した書式を工夫していくことがOJTのシート設計の重要な視点となる。
言うまでも無く、OJTのシートはそれ自体が目的ではない。あくまでOJTを効率良く進めていくための道具でしかなく、計画と進捗管理さえできれば、記入箇所は少ないほどよい。そこで共通部分はあらかじめ埋めておいたり、再利用を可能としたり、記入欄を集約して必要最低限の内容にしていくなど、思いつく工夫は何での施していきたい。

■仕組み別のシートの例
新入社員のOJTの場合は、配属時点の能力がどうあれ、全員ゼロから一定レベルまでを指導していく。そのため指導計画を個別に作る必要性は低く、職種ごとに1つずつ準備されたものを用いることができる。また指導項目は細かく多岐にわたるため、詳細なスケジュール計画を作るのは非効率だ。 そこで、「指導項目の一覧」と月単位の大まかな「期間計画」だけを準備するようにする。「指導項目の一覧」には、項目ごとの指導の優先順位を付け、チェック欄として「実施」と「習得」の欄を設けておく。「期間計画」のほうは、その期間の「テーマ」「主な内容」「イベント」「課題」などの記入欄があるとよい。 また、目標管理制度を利用したOJTでは、目標シートを作ることが重要なため、OJTのためのシートは無くても構わない。そのかわり、管理者用の「ワークシート」を準備し、どういう部分を伸すのかといった構想を練ったり、何を狙って課題を与えたかを記録したり、期中の指導ポイントをメモ書きできるようにしてやる。こちらは個人別のシートではなく、部下全員を一覧できるものが使いやすい。 このようにOJTの「シート類」は、それぞれの仕組みに合うものを工夫することが、OJTを活性化するための重要なポイントだと言える。

この連載は、今回をもって最終回となります。指導者養成の進め方や技能伝承の問題など、触れきれなかったテーマもありますが、またいつか機会があればチャレンジしてみたいと思います。

「企業と人材」38/870号 より

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