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現場道具を保管している3部署共有の倉庫がいつも物で溢れています。異なる部署の共有化の実現は難しいのでしょうか?

社内の5S活動について困っています。
わが社の業務内容は総合建築事業なのですが、現場道具を保管している3部署共有の倉庫がいつも物で溢れています。現場で使った資材の残りを保管していたり、脚立には専用で使用できるよう個人名が書かれていたり、棚の1区画を個人で占用したりしています。私は全く異なる部署の5S推進メンバーなのですが、理想は現場道具を共有化して持ち出し管理をして使用後は元に戻すということです。物は番号で管理したいと考えています。
理想像を3部署に話したところ、以下のような意見が飛び交いました。

1)一人で数箇所の現場を抱える場合もあるので、いつでも自分が使用できるようストックしておきたい。
2)いつでも現場に向かえるよう、会社の倉庫以外に各自が自宅で保管している道具も多くある。
3)現場や人によって頻度や使用する道具も異なるため、共有は難しい。
4)管理されるほど不便で業務に差障りが生じる。

この先どのように推進していけばいいのか分かりません。異なる部署の共有化の実現は難しいのでしょうか?是非ともアドバイスをお願いいたします。

ご質問内容は、5Sにおいてはよくぶつかる状況ですが、ベストの解決策がない難しい問題です。しかし同時に、乗り越えなければならない問題でもあり ます。
教科書的に言えば、道具倉庫の完成イメージを共有し、その完成イメージを実現させるという方針を明確にしたうえで、全員で取り組んでいくべ きとなります。仮に経営トップか、3部署の責任者に当たる人が現場にも詳しくて、「道具は共有管理にする」という方針を明示してくれれば一発で解決する問 題です。
ところがそういった判断を下せる人がいないと、議論は水掛け論になってしまいますし、強引に共有管理を進めても現場の人たちの納得を得られてない場合は定 着しません。そのため、多少時間がかかっても、現場の人たちが納得できるように1つひとつ手順を踏んで進めていく根気強さも必要となります。
そこでここでは、5S自体の活動の手順の話と、どうやれば3部署の人たちで合意形成に近づけるかという話にわけて解説してみたいと思います。

5S自体の活動の手順

ご質問の状況では、現時点でどういう管理方式にするかという完成イメージを共有するのは困難かと思いますが、どういう管理方式にするにせよ、 やるべきことはあります。それを一歩一歩進めながら、問題意識の高まりを待ち、議論できるチャンスをうかがいます。手順としては以下となります。

1)整理のみを進める

倉庫がいつも溢れている状態は正常ではありません。また「道具を保管する倉庫」だとすると、そこに資材が持ち込まれていることも好ましくあり ません。そこでまず、道具の倉庫であることを確認し、その目的と照らして不要なものが一切ない状態を作ります。
仮に、資材も置きたいということであれば、本来の資材置き場とは別の場所に分けて置くことの是非を議論したうえで、倉庫内に資材置き場のスペースをとり、 道具の置き場所と資材の置き場所を明確に区分して置くようにしてください。

2)個人で管理している道具のうち、ダブっているものを返却させる

この段階で、一気に共有管理に持っていくことは難しいと思いますが、少なくとも個人が同じものを複数もつ必要はありません。そこで、もし同じ 道具をダブって持っているものがあれば、それをすべて返却させてください。

3)暫定的な置き場を決める

この状態で一旦暫定的な置き場所を決めて仕事ができる状態にします。ただし、置き場所が決まったら、大まかな表示は進めるようにください。仮 に、一部の個人が自分だけの区画を占有しているとしたら、そこにも「誰々用道具置き場」という表示をしてもらいます。
これには2つの意味があります。第1は、守るべきルールを明確にするという点です。どこに何を置くかについては使う人の意見を尊重せざるを得ませんが、置 き場所が決まれば、「すべての置き場所に表示をする」という部分は統一のルールです。この部分はきっちり守ってもらいます。
第2の意味は、状況を明確にし、関係者の問題意識を喚起することにあります。もし、スペースにゆとりがあり、倉庫の利用者全員に個人スペースを与えること ができるのであればそれはそれで1つの管理方法かと思います。しかし、特定の人だけが個人スペースを占有しているとしたら、不公平感や疑問を感じる人が出 てくるはずです。それを期待し、現在どういう状態になっているかが、管理職も含め、みんながわかる状態にします。

4)道具に現物表示をする

ご質問にも書かれていたように、番号管理でいいと思います。
この段階になると面倒だと感じる人が出る可能性がありますので、誰かが代表して表示ラベルをつくり、共有化されているものにはその人が貼ってしまい、個人 で管理しているものはラベルを渡して保有者に貼ってもらうようにします。
また、この段階での現物表示はあとでやり直す可能性が高いので、あまり凝らずに手早くやってしまいます。

5)道具のリストをつくる

何が、どこに、どれだけ、どうのように管理されているかを明確にします。
少し面倒な作業になります。特に「どこに」が問題で、「個人宅」は基本的に認めず、本籍地(倉庫内の棚や区画)を決めるようにしてください。「どのよう に」とはここでは保有者のことで、共有物か、個人の専用となっているかを指します。個人の専用となっているものは、誰かまで明示してください。
リストができたら、道具別と保有者別で並べ替えたリストをつくって共有します。

6)管理方式の基本原則を検討する

リストを作ることにより、道具の全量、全体像が明らかになっています。そこで、基本は「個人別とするのか」「共有とするのか」あるいは「物に より個人別と共有を定義するのか」、考え方を明らかにします。
もし、全員で同時に使うことが少ないものであれば、個人別である必要はありません。あとは取り出しと返却が面倒かどうかという点だけですが、課題は絞り込 まれません。逆に、どの現場にも、毎日持っていく道具であれば、個人別に与えたほうが効率的と言えます。
ただし、個人別とするには、人数分の個数とその置き場所が必要になります。そのため、個人別の方向で検討が進みそうな場合は、人数分の個数を揃えるコスト や必要スペースも算定し、現実的かどうかも検討に加えます。ここで1つのポイントは、利用方法(ルール)の議論は含めず、どちらがあるべき姿なのかだけに 絞って議論することです。

7)利用ルールを工夫する

管理方式についての基本原則が決まったら、その管理方式にしたら、どういう利用ルールになるかを設計します。理にかなった原則であっても、そ れによって面倒になるのであれば最終的な賛同が得られません。そこで、利用ルールを組み立てみて、面倒になりそうな部分を洗い出して改善策をみんなで考え ます。
利用ルールを組み立てるという点は個人別とした場合も同様です。道具を個人別にするのは管理やルールがいらないわけではありません。日常の使用は個人に委 任されているだけで、道具自体はあくまで会社からの貸与であり、数量の保持と手入れは個人が責任を持って行い、定期的に報告をするようなルールは必要とな ります。

8)表示を徹底する

新たな管理方式のもとで置き場所を再構成したら、今度は表示を徹底して行います。現物への表示も、記号のつけ方や色などを工夫して、返却しや すく、他の場所のものが紛れ込んでないことがひと目でわかるように工夫していきます。

合意形成の可能性

想定される手順は上述した通りですが、もう1つ、改善していくことに抵抗感を持っている人たちとの間で、どうやって議論を深め、合意形成を 行っていくかという大きな問題があります。ここでは、論理的にどちらが正しいかというだけでなく、感情面の問題もあります。この感情処理をうまくできない と、どんなに正しい主張であっても受け入れてもらえません。
上述した手順も、合意形成へのプロセスを意識して組み立てたものですが、以下にポイントを整理して解説してみたいと思います。

1)反対する人たちを理解する

5S的な改善を進めるときに厄介なのは、ベテランの人ほど、あるいは一定の業績を上げている人ほど抵抗を示す傾向がある点です。これらの人達 は、改善しようとする人から見ると、保守的で、頑固で、時代遅れな人だと映りがちです。しかし、抵抗や反対をする人には、合理的かどうかは別にして、本人 達なりの理由や事情があります。この部分を理解し、共感を示せないと、協力して改善していこうというムードは生まれてきません。
彼らは保守的なのでなく、不便だった状況から自分なりに工夫し、現在の便利だと感じるやり方にたどり着いたのかもしれません。ひょっとすると彼らの中には かつて同じような問題意識を持って改善しようとし、反対にあって断念した経験を持っているかもしれません。
管理ができないのではなく、普通の人にはマネできないような煩雑な管理を自分の中だけでやっているような人もいるかもしれません。そういう人の場合、全体 として管理のしくみは必要としていませんし、逆に誰にでもできる便利な方法を導入することには、自分の業績や地位の厳選となっている価値を相対的に低める わけですから、無意識のうちに抵抗感を感じるかもしれません。
しかし、これらの人は決して何でも反対というわけではありません。自分自身もより便利なると感じ、それによって自分の存在価値が低められる心配がなけれ ば、比較的簡単に賛成に回ってくれることがあります。逆に単純に部分的な管理の仕方の問題点を指摘しただけであっても、その人全体を否定していると誤解さ れ、感情的にもつれてしまうと、とことん頑固でかたくなにしてしまうこともあります。
そのため、現場で地道に努力してきた人がやってきたことは絶対に否定しないことが大切ですし、そう言った人の意見には耳を傾け、尊重していく姿勢が不可欠 となります。

具体的には、検討を開始する段階で必ず教えてもらう、今のやり方を聞かせてもらうという段階を設けます。そして「なるほど、確かにこの方法だ とやりやすいですね」「ここまでやられてるんですか、すごいですね」など、良い面を見つけて理解を示してあげてみてください。そうすると、自分のやり方が ベストだと思ってない人も多いので、「いや、みんながちゃんとルールを守るなら、俺がここまでやる必要はないんだけどね」などと、協力姿勢を示してくれる こともあります。

2)結論を決めずに接する

ご質問の状況ですと、道具を共有管理にするか、個人別の管理にするかという点が大きな論点です。一般的には、共有化を進め、置き場所と返却の 管理をきちんとやるようにしたほうが、道具の数も少なくて済みますし、スペースや管理のムダも少なくなります。しかし、これは一般論でしかありません。ご 質問の状況を読む限り、この一般論が当てはまっている確率が高いと思えますが、絶対にそれがベストだと言える確証はありません。そして、大切な事実は、実 際に長年仕事をやってきた人達が、共有管理にすると面倒になる、やりづらくなると感じていることです。
この場合、もし結論を持って議論しようとしたり、自分の結論へ誘導するような意見を言ったりすると、相手の人達の警戒心を強くしてしまいます。そして一旦 反論を口にしてしまうと、その発言にとらわれ、あとは自分の主張の正当性を証明することだけに意識が向かうようになってしまいます。
そこで、検討を進めるときには、決して結論を決めず、みんなが便利になる方法を一緒に考えましょう、という姿勢で臨むようにします。そしてお互いが合意で きる部分を大切にしながら、取り組める作業を1つずつ進めていくようにします。
上述した手順では、倉庫にものが溢れているという事実や、いずれにしても整理はすべきという点は合意できるはずですので、本格的な議論は焦らずに、まずは 整理によって目指すべき状態に1歩でも近づくようにしていきます。

3)情報の共有に努める

改善案を提案する人とそれを受け入れる側の人には、意識やイメージしているものに差があります。そのため時間を費やして議論をしているつもり でも、そもそもまったく土俵が違ってしまっているということがよくあります。
提案者は全体を見渡してたくさんのムダを感じているかもしれませんが、個々の作業者の個別の状況や具体的な仕事の手順は見てないかもしれません。一方、改 善案を受け入れる側の作業者は、自分の仕事の状態だけしか見てないかもしれません。また、提案者は5Sが完成したときのイメージを持ち、不要なものが無く なり置き場所が明確に去れた中での共有管理を主張しているのに対し、作業者側は現在の倉庫のようにものが溢れ、取り出すのにも戻すのにも手間がかかる状態 での共有管理しかイメージできてないかもしれません。
合意形成を行うときのポイントは、こうしたギャップを可能な限り埋めていくことにあります。その方策が情報の共有となるわけですが、情報の共有にはデータ や資料を作ることだけでなく、最終的な完成状態に近い状態を作って実感しやすくしていくことまで含まれます。

上述した手順で道具のリストを作る作業や、まず整理を行い、暫定でも良いので置き場を決めて表示をする作業などは、情報を共有し、意識やイ メージのギャップを埋める作業を意図したものです。
できるだけ多くの事実を確認し、イメージを共有できてから本格的な検討にはいったほうが、論点が絞られ、効率良い議論が可能となりますし、適切な結論に結 びつきやすくなります。

4)大原則は全体最適

こうして書いてくると、抵抗を示す人達に対して、かなり譲歩しているように感じられるかもしれません。しかし、これらのプロセスは決して譲歩 しているのでなく、理想とする姿に近づくため公正で効率的の良い手段なのです。
相手を尊重し、1つひとつ手順を積み重ねていくとしても、決して譲ってはならない部分があります。例えば、管理方式をどうするかは検討次第だとしても、 5S自体には取り組むんだという点、また5Sをどこまで徹底してやるかは職場ごとの判断を許しても、ムダがなく乱れない状態にはするんだという点などで す。
さらにもう1つ、大原則として「全体最適」を目指すという点も譲ってはいけません。
例えば、道具を個人で保管したほうがやりやすい面は多いかもしれませんが、道具の数量が人数分ない状態で一部の人だけが個人で占有してしまうと、他の人は 非情に不便になっている可能性があります。そのため、もし人数分を揃えられないとしたら、一部の人が多少不便になったとしても、これまで不便だった人が便 利になり、全体として効率が上がるほうを選択するようにします。
また5Sでは、個々の箇所や物を取り上げると、あるルールを適応させることが実用性や効果という部分では意味の薄いものもたくさんあります。しかし、個別 のところでは意味が薄くても、曖昧さを無くすためとか、全体の管理状態を維持するためという観点に照らすとムダでもやるべきことがあります。こういった部 分でも、個々の事象だけでなく全体最適という観点から要否を判断するようにします。
とは言え、全体最適を打ち出したとしても、全員が素直に従うとは限りません。そのため、最後は説得が必要になるかもしれませんが、この最後の段階では強い 意志を持って向き合うようにしてください。

以上、長々と記述しましたが、奥深く難しい問題のため、これでも十分回答し切れてないかもしれませんが、多少でも参考になる部分があれば幸い です。


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