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企業と人材 第38巻866号2005.09.20

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【OJTを成功させる!第4回~リーダー格昇格者と新任管理者のOJTの仕組み~】

<以下掲載内容>

【1.中堅層以上のOJTの仕組みの必要性】

■今回のテーマについて

今回は、中堅以上の階層でのOJTの仕組みについて取り上げてみたい。中でもリーダー格の階層への昇格者を対象としたOJTと、新任管理者に対するOJTの仕組みを具体的に考えていくことにする。 ここでのOJTの対象層は、仕事に関しては一通り習熟し、改めて教えることが無いと感じられる層だ。そのため、彼らを対象としたOJTの仕組みなど必要ないのではないかという意見も多い。
しかし、昇格や昇進をすると役割が変更になったり、新たな役割が追加されたりする。これらの役割は本人にとっては未経験のものであり、やはり新たな能力習得が必要なはずだ。
特に、中堅層以上になって新たに習得すべき能力には、「判断力」を伴うものが多い。またその判断も、個別的な状況におけるものがほとんどだ。これらは、数日間の集合研修や文献学習でだけで習得できるものではなく、実践を通して培っていくことがどうしても欠かせない。だとすれば、身近にいる上司が助言や指導を行うOJTが、どの教育手段よりも適している。

■仕組みとしての検討
管理者の中にはこのことを非常によく理解している人がいる。そういう人は仕組みは無くてもよく部下を指導しているが、そういった人は多数派でない。意識が低い管理者も多いし、必要性は感じていても実践できていない管理者も少なくない。
そこで、より多くの管理者が、できるだけ少ない労力でOJTに取り組めるような仕組みを準備してやるほうが、OJTの実施率は高まってくる。また、上述したような部下の指導に熱心な管理者でも、自分の経験を押し付けるだけで、必ずしも部下の成長に結びついていないケースもある。そうならないようにするためにも、OJTの仕組みの中で標準的な指導内容を提示しておくことが有効だと感じられる。
本稿では、昇格者や新任の管理者に対するOJTについて、指導内容や指導方法よりも、仕組みそのもののほうに焦点を当てて、以降に記述していく。

【2.リーダー格への昇格者に対するOJTの仕組み】

■対象者の位置づけ
まずリーダー格への昇格後のOJTの仕組みについて見ていきたい。まずここで言う「リーダー格への昇格」であるが、各社で人事制度が異なるため、どの層という例示がしづらい面がある。そこでここでは「実務担当者としての役割に加えて、職場リーダーとしての役割が期待される層へ上がった人」と位置づけておくことにする。
実際には各社の人事制度により「何等級への昇格」「何職への昇進」「何グレードへの進級」などと個別に対象層を定義することになるが、以降では一律「昇格」と使っていくことにする。
ここでの昇格は、それによって直属の部下が付いたり、職務権限が加わったりということまでは意味しない。多くの場合、このあたりの層では昇格したからといって職務内容が大きく変わるわけでない。そのため、本人が昇格したことを強く意識するか、周囲から何らかの働きかけが無い限り、昇格前と同じように仕事を続けてしまいがちとなる。そこでこの機会を捉えて集中的にOJTを実施することで、本人の意識と活動内容を変えていくことを狙っていく。

■仕組みの概要
2つのOJTの仕組みの概要は、図表〓にまとめてみた。昇格後のOJTでは、昇格後の1年間をOJT対象期間とし、直属の上司が責任者となって指導にあたる。特別な仕組みを新たに作るのでなく、すでにある目標管理制度などを活用し、それを通常よりも充実した内容で進めていくというイメージだ。
このOJTでの主なねらいは、昇格前に比べて職務拡大を図っていくことにある。拡大させていく方向は担当業務や職場状況によっても異なるが、今までの本人のやり方だけではうまく行かないもの、本人だけでなく周囲に働き掛けないと成果に結びつかないものを職務や課題に加えてやるのが望ましい。
いずれにしても、上司からの要求レベルを思い切って高くしていくことがここでのポイントとなる。高い要求に応えようとすると、いろいろな問題が発生する。その問題の解決にあたる過程で、これまで使ってなかった能力を使う機会が生じるし、未知の体験もすることになるかもしれない。それらによって、本人の成長を促して行こうという目論みだ。
しかし、新たに発生する問題を本人が独力で解決できるとは限らない。そのため上司も、本人の活動状況を常に意識し、相談を受付け、助言やサポートをしてやる必要性が高くなる。これによってOJT関係が生じやすくなる。 こういった助言やサポートは、本来は全ての部下に対して必要なはずだが、現実には全員に十分な時間を取るのは難しい。そこで、特定の対象者の特定の時期に絞ってそれを実践していく。
一方で上司の助言やサポートが特定の部下に集中すると、不公平感を抱く部下が出てくる可能性もある。しかし、公式の仕組みとしてそれを行っていることを表明していれば、周囲の理解も得やすくなる。この点も仕組みとして準備することの1つのメリットと言える。

■効果を上げるための工夫
この昇格時のOJTの仕組みを機能させるためには、いくつかの工夫が必要となる。まず昇格後の最初の目標設定面談が重要で、そこで従来より要求レベルを高め、実際に職務の拡大を促せるかが最初のポイントとなる。
そこで、面談で使用するシートを1枚準備してやる。シート自体は単純なもので、前年の役割や目標と今年の目標を対比して記入できさえすればよい。図表〓の「担当職務比較シート」がそのサンプルイメージだ。
「主な役割」の欄には、職能要件書、行動基準書、コンピテンシーモデルなどより、ポイントを拾って転記する。これは前年と今年の期待内容の違いを読み込み、意識させるための作業となる。
「職務・目標」の欄には、前年と今年の目標を記入する。それによって前年と今年の職務の違いが一目瞭然となる。そして面談の中でこの対比を見ながら対話を行い、十分なレベルまで目標を高めていく。 しかしならがら、目標を高めてようとしても、業績評価を意識してしまうとどうしても躊躇が入ってしまう。それを避けるには、このOJT期間に限って業績評価に関する救済措置を設けておくことも必要かもしれない。そうした特別措置を検討できるのも、OJTを仕組みとして準備するメリットだと言える。

■部門内レビュー
このように面談時の仕掛けを準備してたとしても、上司側が十分に要求レベルを上げられるとは限らない。上司そのものが高いイメージを描けなかったり、面談時に妥協が入ったりするためだ。
そこで、もう1つの仕掛けとして面談内容の「部門内レビュー」を義務づける。例えば上司が課長だとすると、部内の課長会議の席で、面談で使用した「担当職務比較シート」を用いて面談した上司が報告する。それを部長や他の課長を交えて、要求が十分かどうか議論する。時間的には20分もあればやれるので、それほどの負担にはならない。
このレビューを義務づけておけば、面談が確実に実施されるだけでなく、この対象者の階層に対してどの程度の要求をすべきかが、部門内の管理職の間で共通認識が生まれるようになる。また他の課長も昇格者の目標を知ることになるので、みんなで意識して昇格者に声をかけるようにすると、本人のモチベーションアップも図ることができる。
レビューは目標設定の面談後だけではなく、評価の後にも行うようにする。特に業績評価の救済措置を設けた場合は、救済内容の妥当性を検証する意味でも評価後のレビューは必須としたほうがよい。この部門内レビューの効果は昇格者とその上司の課長に対してだけはなく、他の課長にとっても、集合研修でケーススタディなどをやる以上の学習効果が期待できる。

【3.新任管理者に対するOJTの仕組み】

■対象者の位置づけ
新任管理者のOJTについても、まずOJTの対象者の位置づけを明らかにしておきたい。ここでの対象者は「新たに管理職位に任用され、職責権限と労務管理責任のある部下を初めて持った人」とする。その職位は企業によって異なるが、ここでは仮に対象者を新任課長とし、その上司を部長としておく。
新任課長といっても今日ではプレーイング・マネージャーであることも多い。しかし、プレーヤーとしての職務が継続されているにしても、職責権限の行使や部下の評価などの管理実務を初めて行うことには変わりはない。
この管理実務を担うには、プレーヤーとは明らかに異なる知識やスキルが必要となる。それらの習得を促すことがこのOJTのねらいだが、それらが全く初体験という前提にしておくことが、新任管理者のOJTの仕組みづくりのポイントとなる。

■あたかも新入社員のような仕組み
ここでもOJTの対象期間は1年とし、指導責任者は直属上司とする。今回の場合は部長となる。しかし、それ以外の部分ではリーダー格への昇格時のOJTの仕組みとは異なる部分が多くなる。
昇格者の場合は、OJTを通じて職務拡大を図らなかったとしても、従来通りやっていれば仕事に支障を来すことはあまりない。しかし新任管理者の場合は、何らかの指導がされてないと、判断ミスを犯してしまう危険性もある。そのため、あたかも新入社員のころのように、上司である部長はきめ細かく新任課長の管理行動をチェックし、助言を行っていく必要がある。
そこでOJTの方法も、随時報告を基本としたスタイルとする。部下や業務に対して何らかの判断や管理行動を行った際には、必ず報告するように要求する。
しかし、このような指導方法は、管理職まで任用された「実力者」にとってはあまり面白いものではない。そこでまず、1年間という期限を明示しておく。同時に四半期ごとに面談を行うようにし、様子を見ながら段階的に権限を渡していくことで、本人にストレスが溜まらないようにしていく。
指導責任者である部長の役割は、新任課長がとった行動に対して正誤を判定することではない。見落としている可能性のある情報を指摘したり、他の選択肢を提示したりしながら、より的確な判断ができるようになるように新任課長の視野を広げてやるようにする。これにはそれなりに我慢やテクニックが必要となるため、可能であれば簡単なマニュアルや教育機会を提供しておくことが望ましい。

■マネジメント行動チェックシート
新任管理者のOJTでは、指導責任者となる部長は忙しい。抱えている案件が多く、次々に発生する問題に対して判断や指示を下している状態が普通なので、1つのことを継続的に頭に置いておくというのが難しいようだ。
そう仮定すると、重要ではあるが緊急度はさほど高いとは言えないOJTは、優先順位がどうしても低くなる傾向にある。その現実を踏まえた上でOJTを実施してもらうには、部長が負担に感じず、確実に実施してもらえる工夫が不可欠となる。
それにはまず、何を指導すべきかを明示し、手軽に指導が行えるようにしていく。そのツールとして、課長のマネジメント行動の一覧表をスタッフが作成してやる。ここに記載された項目が、部長にとっての指導項目の一覧となる。
作成に当たっては、期、月、週、日、随時といったサイクルと、主管業務に対して、部下に対して、予算や設備面で、などの管理の領域を掛け合わせ、実施項目を洗い出していくと良い。例えば「期首/部下に対して」であれば、担当配置、部下の目標設定指導、といった具合だ。もし管理者マニュアルなどが作られていれば、そこから項目を拾うといいだろう。
指導すべきマネジメントの項目の洗い出しができたら、それをチェックシートの形式にまとめる。それによって、指導項目が一覧できるだけでなく、指導したかどうかも管理できるようにしていく。

■OJTの実施管理を新任管理者自らが行う
部長にOJTを確実に実施してもらうための仕掛けは非常に難しい。定期的にメールでフォローしたり、部長以上が閲覧できる社内のWebページにマニュアルを準備したりと工夫を重ねれば、ある程度実施率は上がってくる。しかし、それでもやらない人はやらない。しかしそれも忙しさのために先送りされることが主な要因で、決してOJT自体を軽視しているわけではない。
そこでOJTの実施の管理を、指導を受ける新任課長本人の責任としてしまう。本人に対してマネジメント行動をとった場合に上司に全て報告することを義務づけ、四半期ごとの面談も本人から上司に依頼させるようにする。シートも本人が管理し、面談時に上司にチェックをしてもらい、次回の面談まで本人が管理しておく。
また、最後に何らかの報告を義務づけると実施率が高くなるが、これも本人にやらせてしまう。例えば「マネジメント実施レポート」といった名称で、1年間で上司からの何を学んだかをレポートにさせる。これに「マネジメント行動チェックシート」を添えて、指導責任者の部長経由で提出させる。

■OJTの仕組みづくりの方法について
以上のような仕組みは一例に過ぎないが、もともとは組織の中で実力がある役員や部門長のスタイルからヒントを得たものだ。彼らは、部下の管理者を小まめに呼び寄せ、状況を確認したり、自分の意を伝えたりしている。中には部下側が辟易していたり、全体最適とはならない指導に偏っていることもあるが、それでもそういう長がいると部門の管理機能が強化される点は見逃せない。
そこで弊害を生みそうな部分は是正し、バランスの取れた仕組みにアレンジして導入してみようとしたものだ。この仕組みのポイントは、経験の豊富な上司側が、マネジメントについて語る機会をできるだけ多くしていく点になり、聴くことを重視する指導の考え方とは逆行するものかもしれない。しかし、新任管理者の時代はできるだけいろんな考え方に触れ、悩むこともムダにはならないはずだ。
なお、「マネジメント実施レポート」のような最終報告をセットした場合は、全員に提出を求めていく必要はある。しかし、実態のある指導がなされているかどうかという部分については、それほど無理をする必要はない。多少でも新任管理者と指導担当者のコミュニケーション量の底上げにつながれば、波及的な効果は必ず生じてくる。

個々のOJTの仕組みづくりでは、これまで何もやられていないところに新たなものを構築するものもあるが、現在組織の中で非公式に実施されているものを公式の仕組みにしていくことも非常に有効な方法だ。また、完全実施を目指して強制力を持った仕組みだけでなく、ゆるやかな仕組みにして現状からのレベルアップを目指す性格のものも取り混ぜていくなど、柔軟な発想で取り組むことが成功のポイントだと思われる。

「企業と人材」38/866号 より

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