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退職金の問題点

更新 2014.07.04(作成 2014.07.04)

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第7章 新生 29.退職金の問題点

平田は関係会社のプロジェクトの成り行きに意を置きながらも、最大の課題である退職金制度の改定に取り掛かった。
退職金見直しの課題は重い。人事制度、いわゆる給与や資格制度はいわばフローの制度で、個人差も数万円から数十万円といったところで頑張りによっては取り返しも可能の範囲だ。
だが、退職金はストックの制度だ。数十年という長い年月をかけて積み上げ、数千万円の額にも達する。個人差も数百万円から千数百万円になることもあろう。給与の増減は生活の切り詰めなどで対応も可能だが、老後生活の拠りどころである退職金の見直しは、扱い方次第では従業員のマインドを不安に陥れるだけに慎重に取り組まなければならない。
この取り組みもプロジェクト方式だ。人事制度見直しプロジェクトのメンバーに関係会社の人事課長2名を加えた構成になっている。
そのため関係会社の人事課長もかなり忙しい日々を送ることになった。日常業務に加え自社の人事制度見直しのプロジェクトを運営し、退職金見直しプロジェクトにも参加しなければならない。
転籍以来、彼らのマインドは冷めていた。全てに否定的で厭戦気分が先に来、部長になり役員になるという上昇志向もなくなった。恐らくそれはどうせ親会社から送られてくるだろうとの諦めからだ。
転籍とはこういうことを意味する。人件費とともに関係会社に押し付け親会社から切り離される。そのとき社員の夢も希望も誇りも同時に押しつぶされてしまう。どんなに自立の意義を説いてみても転籍の効能を言ってみてもむなしく響く。彼らが卒業するまでそれは続く。だから双方向の人事がいるのだ。彼らの心を繋ぐために親と子が一体経営だという風土を醸成していかないとこうした白けた気分は必ず起きる。
しかし、双方向人事の実現は難しい。コスト管理という御旗の前に子会社のビジネスクオリティやヒューマンクオリティのレベルが何の根拠もなく低く見積もられ、親会社より下に押し込められてしまう。
親会社のほうに、採用段階から人的質が違うのだという意識が強く働き、それはプライドでもあるのだが驕りでもある。
親会社自身の中での淘汰もある。会社の風土や価値観に不適合の烙印を押され、組織からはじき出される形で子会社に転籍する場合だ。
こういう人たちにやる気を起こさせることは難しかろう。出向の場合はいずれ帰る場合もあるとの希望がある。だが、その場合でもプロパー社員には皮肉に映る。“どうせあんたはいずれ本体に戻るんだろう。本気でうちの仕事をやる気があるんですか”と冷めた目で見る。
いずれにせよ、グループ全体で人事ができる人材管理システムが要る。
今回の人事制度見直しの中で、平田はこのテーマに触れなかった。
逆転籍、逆出向。けしてやれないことではないのだが、役員や全社員の意識にある尊厳に手を触れるようでできなかった。運用の中でやろうと思えばやれることなので敢えて骨子に挙げることはしなかった。

ところがそこに、時代の波が彼らをも巻き込むこととなり、いきなり表舞台に引きずり出すことになった。
もはや平穏無事に事なく定年まで過ごせればいいかという冷めた考えはどこかに吹き飛ばされてしまった。彼らにしてみればまさに青天の霹靂だ。
これまでは、親会社の人事や経理、総務の方針や指示に従ってやることさえやっておれば良かったが今は違う。自社のプロジェクトを主体的に運営し中国食品の退職金プロジェクトにも参加し、自らの意見を述べ先生から出される課題や宿題をこなさなければならない。予想しなかった忙しさだ。
冷めた心に鞭を打ち、多忙をこなさなければならなくなった。彼らの目の色が明らかに変わってきた。全社員も注目している。
それ以上に忙しいのは藤井である。2つの関係会社の人事制度見直しプロジェクトをコーディネートしながら平田の退職金見直しのプロジェクトをサポートしなければならない。まさに八面六臂の活躍である。
プロである以上、どういう手順や段取りで進めるかは手の内にあるとはいえ、イレギュラーや特殊性、それに会社独自の個性がある。そこをクリアしながらわかりやすく効率よくプロジェクトをリードし、ストーリーを組み立てて行かなければならない。
また、具体的設計段階では会社の意思としての担当者の工夫やアイディアが必要だが、今回は期待できそうにない。足りない分は自分が提案していかねばならない。
関係会社、平田、藤井の3者の中ではもっとも忙しいだろう。それは関わりの深い平田が一番よくわかった。
平田がそろそろ帰ろうかと思う日付が変わる時刻にも東京から確認のメールが入ってくることから、藤井の奮闘している様子が伝わってきた。頭の下がる思いでそれに応えたことが何度もある。

退職金、年金の歴史はわかった。わが社の退職金の成り立ちもわかった。これらを整理すると、
1. 功労報償の意味合いから老後の生活保障としての性格が強くなってきている。
2. その老後生活保障も、年功さえ積めば誰でもが同じように一定の水準が保障されるのではなく、実力や貢献度によって個人差がつく成果主義を反映した制度に変化しつつある。
3. デフレ時代に突入した今、年金基金の財政は苦しくその水準や運営方法は見直される機運にある。
4. わが社の退職金、年金の給付水準は世間に比べて相当に高水準であり、掛け金は膨大で経営の負担になっている。
5. 退職金、年金の給付方式が勤続年数に応じた最終給与比例方式のため、今後も幾何級数的に水準は上がり続ける。
6. もう十数年もすると団塊の世代が定年を迎え、急速に対象者が増大する。
7. 高齢者雇用安定法では、65才までの継続雇用を努力義務化しており、勤続や賃金にリンクしない独立した退職金制度の構築が望まれる。

外部環境や概要としての問題点や課題はこうしたことである。
中国食品の退職金、年金制度固有の問題としては
1. 勤続リンクのため定年延長等人事政策が打ちにくい。
2. 逆に勤続の長い者が有利のため、転職機運、つまり自主独立の機運が起きにくい。
3. 賃金UPが直接跳ね返り、賃金政策がとりにくい。
4. 確定利率が高く、経済環境と乖離しており、積み立て不足が毎年発生する。
5. キャンセル給との整合を早急に解決しなければならない。
6. 関係会社とグループで基金を設立しており、関係会社も共同で取り組まなければならない。

平田は、数値資料や退職金、年金の構成図などを使ってプロジェクトに提案し、この様な問題点を2、3回の会合でまとめ上げた。

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