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キックオフ

更新 2014.06.25(作成 2014.06.25)

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第7章 新生 28.キックオフ

日本冷機テック(株)の人事課長は森山一哉だ。元は中国食品の人事部にいたが、樋口が会社を買い取ったとき管理体制整備の一環として出向し、その翌年転籍している。
会議室に向かう途中、森山が「平田さん」と呼び止めた。
「今日はどの様に進めたらいいですか」
「はい。今日は初めてですから課長は会議の運営だけしてくれませんか。具体的討議は私と藤井さんでやりましょう」
「どのようにしたらいいですかね」
「プロジェクトの開催宣言と、メンバーの紹介、私たちの紹介と討議は先生にお願いします、みたいなことですかね。それと最初のあいさつは部長にしてもらったほうがいいと思います」
「はい。それはもう頼んであります」
「はい。それじゃ問題ありません。それでいきましょう。次回からは簡単なレジメあたりがあったほうがいいと思います」
「わかりました。よろしくお願いします」

会議室にはもうすべてのメンバーが揃っており、忙しいのに早くしろよという顔をして待っていた。
「おはようございます」と森山はあいさつしながら入っていった。
テーブルがロの字型に並べられていて、森山は「こちらにどうぞ」と、上座らしき一角に座るよう指示した。
その中央には部長の福留が座っており、森山はその向こうに腰かけた。
森山は改めて「すみません。ちょっと用がありまして遅くなりました」と断って、「今日から人事制度見直しプロジェクトが始まりますが、まず最初にご指導いただく平田さんと藤井先生をご紹介します。よろしくお願いします」と平田と藤井のほうを向いて手で2人を紹介した。
「平田です。よろしくお願いします」
「藤井です。よろしくお願いします」
と、2人ともお辞儀をした。
「それでは最初に部長のほうから一言ごあいさつをお願いします」
森山は上手に進めた。
「おはようございます。このプロジェクトは会社の将来と社員みんなの処遇を左右する重要なプロジェクトです。後で後悔のないように自分の信念に照らして真剣に検討してほしい」
福留も、先ほどの社長室での考えは影を潜め部長らしく堂々と、いやむしろ尊大にさえ感じられるような話し方であいさつをした。
最後は、「それじゃ、よろしく頼む」と締めくくり、「それでは、平田さん、先生よろしくお願いします」と出て行った。
森山は、「それでは皆さんのほうから簡単に自己紹介をお願いします」
とメンバーを紹介した。
プロジェクトのメンバー構成は、人事課長の森山一哉、営業所長の土屋雄一、営業主任の前田博文、営業の森本和彦、工場係長の川上昇、本社総務の白川鮎子、そして本社人事主任の村上悟で、総勢7名となった。少し多いが事務局も兼ねているので仕方がない。
「それではこの後はどうしましょうか」森山は自信のなさそうな顔を平田に振ってきた。
「はい。それでは私のほうから、現在の状況とこのプロジェクトの置かれた状況や役割のようなことをもう一度整理しておきたいと思います」
「その前に、少し聞きたいことがあります」
工場係長の川上昇が遮った。
「はい。なんでしょうか」平田は素直に応じた。
「今回のプロジェクトですが、本体の制度が変わったからといってなぜ関係会社まで変えなくてはいけないんですか。僕はその必要はないように思いますが」
「なるほどですね。皆さんは日ごろ目の前の業務と格闘されておりますから世の中の変化と直接関係がないかもしれませんが、会社全体としては大いに関係してきます。
まず全体の話として、関係会社の経営方針も中国食品グループ全体の経営方針にガイドされます。中期経営計画についても今年の経営方針にしてもグループ経営としての方針決定に御社も参加してございます。
日頃の業務の中ではなかなか見えないことですが、世の中随分と変わってきました。円が高くなったり安くなったり。バブルが起きたりはじけたり。そのため銀行や証券会社が潰れたりしています」
「それはわかります。しかし、それがなぜ人事制度なんですか」
「例えば、採用ということを考えたとき、今は男も女もありません。しかし今のわが社の制度ではそれに応えておりません。それに最近の若い人は、自分の力を発揮できる環境とそれを評価してくれる仕組みを望んでいます。それから、円が高くなったり安くなったりしたとき皆さんのところでは燃料が高くなったり安くなったりという影響でしょうが、一歩会社を出たところではそれらの影響をもろに被るディーラーさんや、それを好機と捉える競合が攻勢を掛けてくるわけです。海外からも安い商品が入ってきています」
メンバーは、話として聞いてはいたが、なかなか納得のいくまで噛み砕いて討論したことがないから「なぜ」という疑問が常に離れなかった。
「中国食品グループ全体としてこうした課題に取り組んでいかなければならないんです。特に御社は中国食品の重要な営業戦略パートナーに組み込まれております。ですから、中国食品グループの一員として足並みを揃えて一緒に歩いてもらわなければなりません」
これは、転籍のときにも聞かされた話でみんなうなずいている。
「そこで人事制度ですが、成果主義にしようということがグループ全体の方針として決まっております。特に退職金は、経営を圧迫する重大な懸念材料としてクローズアップされてきました。恐らくこのままでは掛け金不足で基金を解散するか、高額退職金者をリストラするかしかなくなります」
「本当にそうなるんですか。なんとか手はないんですか」
「なります。わが社の退職金は3600万円です。こんな水準はどこの会社にもありません。あのトヨタでもNTTでもです。このままでは退職金倒産を招きます。そこで、グループ全体で退職金をなんとかしなければという環境がやっと出てきたわけです。それには関係会社も協力していただかなければというのがこのプロジェクトです」
「そうですか。わかりました」
「ありがとうございます。そんなわけで皆さんの役割は重大です。私たちも精一杯のお手伝いをさせてもらいますので、よろしくお願いいたします」
みんなも納得したのか、少し表情から硬さが抜けてきた。
「お蔭で今日の私の役割が片付きました。これからはどうやって制度の見直しをやっていくか、藤井先生にバトンタッチしていきます」
プロジェクトは滑り出した。

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