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 ホーム > 正気堂々 > 目次INDEX > No.7-12

事実なのだ

更新 2014.01.15(作成 2014.01.15)

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第7章 新生 12.事実なのだ

「95年に転籍してまだ2年だからね。少し急ぎすぎじゃないの」
「そんなことはありません。わが社だって職能資格制度を入れてすぐ、今の制度構築に取り組んでいます。それに関係会社の今の制度は転籍に合わせて急いで作ったものです。いいわけになるかもしれませんがあの時は時間がなかったし、本体から移籍する人がほとんどでしたから本体制度をそっくりアレンジした制度で凌いでいます。皆さんの生の声を反映して、冷機テックとか、FVSとしての企業特性にフォーカスした制度に見直すべきじゃないでしょうか。そうしないとかえって従業員のみなさんに失礼じゃないですか」
「いいよ、このままで。今順調にいってるんだから」
「順調にいっているかどうか、問題点を洗い出してみましょうよ。社員代表の人たちに聞いてみるといろいろな問題点が隠れているかもしれないじゃないですか」
「そんなことないよ。何も問題ないし」
どこにも状況判断を共有できない人はいる。特に彼らは本体から追いやられたという被害者意識が強いだけに、本体の働きかけには自然と拒否反応が先に出る。
ここを突破するには、多少手荒でも印籠を出すしかないと平田には思われた。
「皆さんの気持ちはわからないでもありませんが、先ほども部長が言いましたように退職金を変えなければならないんです。ここは避けて通れません」
「それは本体の都合でしょう。俺たちはこのままでいいよ」
「いえいえ。それ自体もまた問題なんです。退職金もこのままでは破綻します」
「そうやろ。やっぱり引き下げが目的でしょ」
「引き下げなければならない問題が見えてきたということです。水準の問題や掛け金の問題など、どれくらい大変な状況なのか一度研究してみましょうよ。それでも今のままがいいとなればそうすればいいでしょう」
「いや、いいです。本体だけでやってください」
「本当にそれでいいですか。本体だけでやるということがどういうことかおわかりですか?」
平田のこの投げかけに一瞬会場が引いた。誰も反論する者がいない。どうなるのか想像がつかないのだ。
平田はみんながそのことを認識するまでの一呼吸を置いて、「それではお話しましょう」と話を進めた。
「もし皆さんがどうしても反対だと仰るのなら、中国食品本体だけでもやります。もはややらなければならないところまで来ていますから。もしそうなったら皆さんはグループ年金から脱退してもらわなければならなくなりますがそれでもいいですか」
皆が「エッ」という顔を見せた。
“ここだ”平田は言葉に力が入った。
「そのときは過去の掛け金不足を一括で拠出してもらわなければなりません。それだけの財務力があればいいですが、なければどこかから借り入れなければならないでしょう。何億という借金をして辞めていく人に高額退職金を支払って、残った人は借金地獄で賃金も賞与もままならなくなるって、それって正しいですかね。頑張っている人がもらうべきでしょう。退職金の掛け金も労務費という枠の中から拠出していますから人件費率が高騰します。調整するのは賞与か賃金か人員数しかありません。そんなの嫌じゃないですか。しかも、基金から脱退するということは年金制度もなくなるとういうことになります」
今度は動揺の色が浮んだ。平田は「よしっ」と内心で叫んだ。
「退職金は年金とセットです。今この両方について何が問題かを簡単にお話しましょう」
みんなの「うん」という待ちの姿勢を確認して先に進んだ。
「退職金は、なんと言っても一番は水準そのものです。据置き条率などを加味しますと基本給の88カ月分。部長クラスで3600万円。課長クラスでも3300万円くらいになります。更にはこれに5.5%という高い利息をつけて年金を生涯払い続けるわけですから会社がもつわけがありません」
やっとみんなの視線に聞く耳がついてきた。ここだ。
「これはとんでもない水準です。あのトヨタでもNTTでもこんな水準はありません」いつか樋口が団交で言ったフレーズを引用した。
「このままでは退職金倒産するか、或いは高齢者の退職金が高額に到達する前にリストラするかしかなくなります」
リストラという響きは時には反発を招くが、時には説得力を持つ。
「そりゃ、私だって賃金も賞与も退職金だって高いに越したことはありません。しかし、制度がもたないんじゃ意味がないじゃないですか。退職金倒産するか、制度を解散するかです」
「そんなに問題なんかね」
「皆さんは各年令層の大体最高賃金の位置におられます。皆さんの基本給におよそ88カ月を掛けてみてください。そんな退職金を出し続ける体力が会社にあると思いますか。従業員の処遇水準は結局のところ企業の収益力の範囲でしかないでしょう。今はグループ全体の収益力で考えることができますから、個々で取り組むより安心感があると思うのです。一緒にやりましょうよ」
「わかった。それで、どうしたらいいんかね」
中国ベンディングオペレーション(株)の課長が、やっと飲み込んだように応えてくれた。個別でやれと切り離されるよりグループ内にいたほうが安定感があると計算したようだ。
他の出席者も追随するようにうなずいてやっと話が前に進み出した。
平田は決して彼らを脅したり嘘を言って騙しているのではない。これは事実なのだ。
「はい。皆さんの会社でも人事制度検討プロジェクトを立ち上げてください」
「俺たちだけでやるんかね。そんな暇も力もないよ」
「はい。私たちも精一杯のお手伝いをします」
「どんな手伝いをしてくれるんかね」
「まず、プロジェクトには私もオブザーバーで参加します」
これには両方の反応が現れた。お前も来るのか。
「俺たちのしたいようにできないじゃないか」
「あんたが来てくれたらプロジェクトは進めやすい」
そんな2つの思いが混在した表情が見えたが、一方に引き寄せるために次のフレーズを押し込んだ。
「コーディネーターに藤井さんをお願いします。費用はわが社で持ちます。予算措置もしてあります」
これは効果があった。
「中国食品で使っているN社の藤井さんかね」
「はい。それが一番いいでしょ。彼に先生をしてもらえば早いしいいものができます」
「費用の振り替えとか起きないでしょうね」
「それはありません。グループ全体の制度整備をしなければわが社がうまくいかないと了解してもらっております」
それを聞いて安堵の色が浮んだ。
「ですので、総会が終わったら具体的活動に入りたいと思いますので、皆さんにはその心積もりをしておいていただきたいのです」
「何をしたらいいかね」
「そうですね。まず委員会の位置付けとか、メンバーの目星とか、組合への根回しとかです」

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