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腹の括り

更新 2010.03.05(作成 2010.03.05)

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第5章 苦闘 38. 腹の括り

「どうかね。説明は済んだかね」
「明日の製造部が最後です」
「反応はどうかね」
「概ね理解してくれていますが、冷機がごねています」
「本部長はなんと」
「本部長はなんとも言われませんが、私の感触ではこれでいいのじゃないかと思います」
「そうか。よし、それじゃこれでいくから本気でその準備をしてくれ」
「しかし、まだ製造が」
「浮田や山本が少々騒いだところで問題じゃない。数字がちょこっと変わるくらいなもんさ。あんたのほうでいいように説明しときんさい」
平田はこうした川岸の腹の括りにも気を強くした。部下としては安心して仕事ができる。
川岸はそう言いながらも、陰では営業本部長の河村などキーパーソンのところに足を運び、
「平田からお聞きになられたと思いますが、これでいきたいと思いますがよろしいでしょうか。現場が困っておりますのでこれしかないと思います」と念を押し、きちんと根回しの仕上げをしていた。

「ヒーさん、これじゃ初めからポストが足りんじゃないか」
製造部との打ち合わせは初めから紛糾した。
「足りるか足りないかは何と比較してのことですか」
「係長や主任の人数に対してよ。それに副主任はどうするんかね」
「チョット待ってください。人がおるから主任にするのとは違います。主任というポストがあるから人を付けるのです。まず役割ありきで、そこに人を付けるのが筋です。適任者がいなければ空席だってありうるのです」
「そんなこと言うたって今までそうしてきたじゃないかね」
「だからおかしくなってきとるじゃないですか。それを変えようというのがこの案です。指揮命令系統の一環です、と謳っているじゃないですか」
「そんなこと言うたってあぶれた人をどうするんかね」
「そんなこと心配してくれなくても結構です。処遇は人事の仕事です。大体、製造は多すぎるんです。3、4人のチームに主任が2人もいるところもあるじゃないですか。監督職としては1人で十分ですよ」
「そんなことあるもんか。あっちこっち機械を見て歩かにゃいかんから足りんよ」
「営業なんか外に出てしまうからチームをまとめるのだって大変なんですよ。それに比べたら製造はいつも同じ屋根の下で仕事してるわけですから十分やれますよ。これでも多いくらいです。それとも営業にできて製造にできないということは、製造の人は管理能力が劣っているとでも言うんですか。それなら手当額に差をつけなければならなくなりますよ」
「何を言いよるんかね。そもそも副主任をなくすから足りなくなるんよ。復活させんさいよ」
「要らんじゃないですか。何をさせるんですか」
「主任がおらんときカバーする者がおらんじゃないか。機械を止めるわけにはいかんだろ」
「主任がいなくても機械は動くじゃないですか。オペレーターの代わりがいればいいわけで、主任でなければいかんということはないじゃないですか」
「監督業務はどうするんかね」
「監督職の役割は係長か隣の主任がカバーすれば済む話です。どうしても副主任が要るというのなら、全主任にスペアの副主任をつけることになりますよ。今だって副主任はわずかしかいないじゃないですか。副主任がいないときは副・副主任でも作るんですか。どこまでも際限ありませんよ」
「しかし、これじゃポストが足りんよ」
「ポストが足る足りんじゃなくて、製造ライン運営のフォーメーションとしてどういう体制がいいかを考えてください。それだったら話に乗れます」
平田は、川岸の言う窮鼠猫にさせぬため、妥協的落としどころのヒントを提案した。
「これはいつまでかね」
「特にいつまでということはありませんが、とりあえずこれで役員会にかけようと思っています。もし、変更があれば急いでください」
「自分で作っといて勝手よのー」山本は独り言のようにつぶやいた。
“勝手にしてきたのはそちらでしょう”そう思いながら山本の独り言は聞こえぬ振りをした。

数日後、製造部は多少ポストを増やした案を平田ではなく直接川岸のところへ山本が持ってきた。
そこには必要なポストだけでなく、そのポストに誰を任用するかの案も添付されており、人事部の手間が省けた。本来なら厳選しなければならない最も大事な仕事だが、どうせ現任者が追認されるだけで今は問題ではない。
「誰を残すかですが……」山本が説明しかかるのを川岸は手で遮り、
「いや、よかよか。ありがとうございました」と受け取り、理由も説明もほとんど聞くことなく、「ヒーさん。これ頼むわ」と平田に回した。
山本が帰ると、
「製造部が作った案だからけしてもめることはない。これで通ったも同じや。楽勝よ」と笑ってみせた。
「一人二人増えたってどうってことあるもんか。力のない者はそのうち淘汰されていくようになるんやろ」と確認するように平田の顔を下からのぞき込んだ。平田の心を見通しているようだ。
「後は春闘にどう盛り込むかや。ヒーさん頼むぞ」

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