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組織論

更新 2016.04.19 (作成 2006.08.14)

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第2章 雌伏のとき 31.組織論

「ところで、今年度の販売見通しで、今後2つのキャンペーンを予定されているということでしたが、それらがうまくいったとしてどの程度の売り上げと利益見通しでしょうか」
「企画段階ですが、営業部の試算で売り上げが予算の95%の450億円、利益は経常でプラス1千万円になる予定です。なんとかプラス圏まで持っていきたいと思います。組合の皆さんにも、ぜひご協力いただきますようお願いいたします」小田は頭を下げた。
「なかなか厳しいですね。おそらくこのキャンペーンもうまくいかないでしょう。営業現場のほうも、マンネリ化したキャンペーンにまたかと思っていますし、厭戦(えんせん)気分が蔓延しています」
「ウーン、困りましたね。どうしたらいいと考えますか」
「会社がこのような事態に陥ったのには、大きな問題が潜んでいると考えます。それは組織のあり方の問題です。……」吉田は、数日前平田に教わった組織のあり方論をここで披瀝した。
「こういう組織のあり方が、一事業部の専横を許し、経営の重要な方針を誤らせてしまうのではないかと思います。社員の人心を一新しようと思ったら、今までの考え方を破って、何か新しく生まれ変わった会社の姿を見せる必要があると思います。そのために、組織を抜本的に見直すのもいいかと思います」
これにも、管理部門の責任者らしく後藤田が答えた。
「専横という表現はどうでしょうか。確かに現在の組織は事業の効率を優先してきましたので、多少先走ったり、オーバーランするようなことがあるかもしれません。組織のあり方にはいろいろな考え方がありますが、組織をどうするかは、まさに経営そのものです。業績が右肩上りのときは効率を重視した考え方をとり、経営戦略に沿った機能重視の組織にしますし、組織に何か重大な要素が欠落したり、会社に何か大きな問題点が存在するときはそれを補うような組織を設けたりと、その時々で臨機応変に柔軟な考えをしなければなりません。今、わが社の組織はどちらかというと事業部制をとっているといえます。この形は責任の所在を明確にし、意思決定の早さを重視したものです」
「ということは、今回の業績不振の責任はひとえに製造部にあると考えてもいいということですね」またもや作田が横から口を出した。浮田の責任を追及したくてしょうがないのだ。しかし、そのたびに本来の議論の主旨からずれていった。
「責任ということは、明らかに問題や失敗が顕在化したときに浮上してくることで、ここで責任問題を取り上げるのはいかがかと思いますよ」後藤田は諭すように答えた。
「しかし、山陰工場の負担でこれだけ業績は悪化してるじゃないですか」作田はなおも食い下がった。それに便乗するかのように、山陰出身の執行委員が言った。
「そうは言われますが、山陰工場に行ってみてください。工場の人たちは毎日草むしりばかりさせられています。顔を合わすたびに、こんなことばかりさせられて俺たちは要らんのじゃないか。これから俺たちはどうなるんですかと尋ねられます。いつ首になるかと心配ばかりしています。可哀想で見とられんですよ」
「今は販売不振でそうかもしれませんが、首にするようなことはありません。もうしばらく我慢してください。会社もこのまま座して待つわけではありません。山陰工場が失敗か成功かは、いずれ歴史が証明してくれると思います」と、後藤田は含みをもたせた。
「しかし、こういう組織のあり方は一事業部に権限が集中し、牽制機能が働きません。結果、業者との癒着や組織腐敗を起こす可能性があることを申し添えておきます」吉田は締めくくった。

“これ以上発展すると険悪なムードになってしまう。この辺で打ち切らないと”と判断した進行役の筒井が、話が一区切りついたところを見計らい、
「それでは時間も押し迫ってきましたので、組織のあり方は会社の検討事項とさせていただきまして、労使懇談会はこれで一旦終わらせていただきたいと思います。それでは最後に社長からごあいさついただきたいと思います」
「いやー、今日は長い間貴重なご意見をありがとうございました。会社はこのように大変厳しい状況でありますが、役員一同なんとか頑張りたいと思いますので、皆さんのご協力をよろしくお願いします」
こうして労使懇談会は誰もが予期したとおり、山陰工場の問題に終始して終わった。
平田は、心配した製造部内のいやらしい問題のことに話が発展しなかったので、“さすがにみんな大人やな。信頼できる”と胸をなでおろした。
「それでは、この場は一旦これでお開きとさせていただきまして、これから懇親会に移りたいと思います。‘福嶋’に会場を準備させていただいておりますので、6時までにお移りいただきますようお願いいたします。それでは今日はありがとうございました」筒井は、場をお開きにした。

会社の組織というのは、どんな経営がしたいかという経営の明確な意思の表れである。何をしたいかは、直接的には経営計画とかビジョンで表明するが、それを実現するためのフォーメーションが組織であると考えたらわかりやすい。だから、ビジョンなくして組織は語れないと私は考えている。
例えば、会社には人事部があって、経理部があってと考えるのではなく、社員は派遣社員にし、経理はシステム化して外注し、会社にはこれら外注を管理する管理部があればいいかもしれないではないか。わかりやすく言えばこういうことだ。
組織の名前もわかりやすいのがいい。ミッションをそのまま名前にし、何をする部署かが誰にでも一目でわかるようにしたほうがいい。
ある市に、ゴミ問題課というのがある。従来は環境課とか衛生課などとなっていた。これで、市民はどこに相談したらいいか、内部でもどこが担当するのかが明確になった。
今までは、人事(ひとごと)を扱うから人事課だったが、これからは人材を大事にし、リソースするところと考えれば、人材課などとするのもいい。
このように、組織というのは経営が何をやりたいかでその役割も呼称も違ってくる。会社の経営戦略そのものなのだ。
人事(誰をどのポストにつけるか)は、組織の次のことである。人事ありきの組織は、組織自体が確実に重くなる。
課単位だけでなく、少し大きな部単位にも同じことがいえる。

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