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制度概要

更新 2013.01.15(作成 2013.01.15)

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第6章 正気堂々 69.制度概要

95年の秋、新しい人事制度の概要がほぼ出来上がった。
『コース別人事制度』である。
この制度に特筆すべき事項がある。かいつまんで披瀝すると。
1つは、申すまでもなくコース制を導入したことである。人件費の抑制と効率的使用は成長鈍化が顕著になった今、一つの命題だった。コースを設定することで効率的な育成と人件費の配分が可能になる。
特徴は、女性社員の総合職を設けたことと、マネジメントとテクニカルエキスパートを明確に区分けしたことだ。
女性総合職はその後積極的に採用を広げ立派な戦力に育っていったし、既存の社員からも転換試験を通じて2割くらいの女性が総合職に転換した。
もう1点は、テクニカルエキスパートコースを用意し、顕著な業績を出すがただそれだけの人は名プレーヤーとしてテクニカルエキスパート職に遇し、マネジメント職と区別したことだろうか。それにより、マネージャーとなることがなくなったのでマネジメント力不足による組織への弊害が少なくなる。処遇目的の管理職がいなくなり、組織はシンプルになり運営がやりやすくなる。
もう1つは、管理職制度の整理にまで踏み込んだことである。平田が目指す公正な人事の究極は管理職制度の整理である。
力のない者がごますりだけで管理職になり、マネジメント力不足の弊害を組織に及ぼしては会社の損失は大きい。
また、業績だけで管理職に取り立てられた者でも過去の栄光にあぐらをかき、いつまでも生産性と処遇のアンバランスを享受させていくほど経営環境は甘くない。その人たちこそがテクニカルエキスパートなのだ。それに優秀な若い社員が次々と育ってきており、彼らにポストを禅譲し活躍の場を提供しなければならない。彼らこそダイナミズムを感じさせる金の卵だ。
ただ、この改革への抵抗は思ったより大きく平田への反発は想像を超えた。
この改革で、それまで管理職と処遇されていた人が担当職やテクニカルエキスパートに処遇されることになる。それを降職と受け取る人が多かった。
一度管理職になると未来永劫その処遇が約束されたと思っているが、そのこと自体が平田の言う問題なのだ。組織は柔軟に変更する。縮小もあれば廃止もある。そんなときどうする。今のままでは解雇しか手がないではないか。それを嫌う経営に処遇し続けるしかないと諦めさせていた大きな要因だ。組織が硬直化しコストは高くつく。ギリギリまできたとき一気にリストラ圧力が押し出される。すでに何かにつけてあちこちで取りざたされている。
管理職といえども高処遇が約束されたわけではない。管理職の賃金はキャンセル方式になった。年俸制の亜流と考えてもらったらいいだろうか。前年度の評価結果によって今年度の賃金が決まる方式だ。「前年度これだけの成果を出してくれたから、今年も同じ成果を期待するよ」を前提に今年の期待給が決まるのである。
それには年令給や資格給など安定した下支えの賃金がなければできない。
例えば、課長クラスの場合1評価段階あたり1万円の格差とし6段階設定した。昨年度の年間評価でS評価を取れば4月には一気に最上階の期待給がもらえるし、C評価を取れば最下位の期待給になるということである。
たかが1万円ずつの格差だが、頑張り続けなければという緊張感は出せた。部長級ではもっと開く。
昇格したときはどうする?上位資格での評価はまだ受けていない。優秀だから昇格したのであり最下位ではあるまい。しかし最上位でもない。ニュートラルとしてミドルに仮付けすることにした。
かなりの反響を呼んだが、むしろ平田のような担当職には厳しい制度である。現在のようになにかテーマや課題に取り組んでいるときはいい。それらが解決したり成果を出し切ったりした時はいい評価を得られるが、その後は一気にお休みモードに入ることだって考えられる。
しかし、それもメリハリがあっていいかと平田には思えた。
もう1点は、セカンドキャリア支援制度を設けたことである。
人生80年時代になり社員が定年後の人生を考えようとした場合、60才定年を迎えてからでは遅すぎる場合もある。何かにチャレンジしようとする時、若さ、勇気、元気のあるうちにしたい。
そこで社員自らが第二の人生を考えることができる制度としてセカンドキャリア支援制度を設けた。
また、どこの企業も同じだが中国食品でも団塊の社員の構成比は高い。だが雇用に手をつけるのは経営として大きな決断がいる。
そこで定年まで勤め上げることだけに拘らず、自らが自立し第二の人生を切り開こうとする社員は積極的に応援することにした。
会社からは絶対に勧奨しないことを前提に、要員計画の直前に年1度募集をかける。応募した人には退職金とは別に支援金として最高1千万円を支給することにした。
これにより、社員の自立と組織のスリム化の両方を狙った。

これらを
イメージ図1

にまとめ、別に「コース別とは」や「退職金のポイント化」などについての解説書を添付して役員会に提案した。
提案者である部長の丸山には改定の背景や問題点などから制度の考え方まで徹底的にレクチャーした。
丸山も嫌な顔一つせず積極的に飲み込んでいってくれた。
制度や仕事を理解するとは、なぜそうしたかという提案者の心とか思いとか、その精神を理解することだ。制度そのものは企画書を見ればわかる。しかし、その心を汲み取っていなければ横からの思わぬ反論に揺らぐ。マインドを形に組み直したものがシステムだからだ。
平田は背景やそこの結論に至った自分の考えを根気よくレクチャーした。
役員会には川岸や樋口など人事部経験の大物がいる。いくら準備してもし過ぎることはない。
丸山は平田の説明を聞くだけでなく、人事部内で模擬役員会を設定し提案の練習を繰り返した。メンバーを何人も入れ替えしながらいろんな角度からの疑問や質問を出させて、自分の新制度に対する見識を鍛えていった。
当然、新田への事前根回しは抜かりなかった。
その甲斐あって丸山は見事に役割をこなし、役員会を乗り切った。
役員会を終えた丸山は足早に人事部に戻ってきた。
心配で気をもんでいた平田と花本は走り寄り、机を取り囲んだ。
人事部全員が丸山に注目した。
丸山は、持っていた自分の提案書を机にバンと強く置き、
「通ったぞ」
と皆の顔を代わる代わる見渡した。
「ヤッター」と叫ぶ者あり、「ありがとうございました」と頭を下げる者あり、「さすがですね」と持ち上げる者あり。人事部全員が沸きあがった。
「あとは詳細設計だ。一気呵成にやってくれ」
丸山は平田の顔をのぞきながら最後の仕上げを頼んだ。
「なにか問題はありませんでしたか」
「いや、なにもなかった。よくここまでわが社の問題を研究しているとお褒めの言葉をいただいた」
「ありがとうございます」
「うん。……」
「組合にも経過報告しておきましょうかね」
「うん。やっといてくれ」

丸山は、メンバーを連れてこの日は遅くまで流川でハメをはずした。
1995年9月26日だった。

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