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掃きだめの鶴─新人からの逆OJT

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元技術者  2016-02-16

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掃きだめの鶴─新人からの逆OJT

当時私は相当くさっていた。会社を辞めようかとすら思っていた。
某メーカーの技術開発事業部に技術者として勤めて8年目のとき、事業部内の人材開発室(仮称)に異動の内示を受けたのだ。
当時、会社の雰囲気は技術至上主義のようなところがあり、技術者は花形だった。
本社のスタッフ部門に異動になるなら栄転ともいえるが、事業部のスタッフ部門では、技術者として失格の烙印を受けたようなものである(と自分は思っていた)。人材開発室といったって、採用も人事異動も研修も、予算と権限はすべて本社の人事部が掌握しているので、やれることがほとんどない。本社の計画にのっとって連絡事務を行う程度が関の山だ。

なので、技術者の中では「あそこに回されたら終わりだ」という雰囲気があり、人材開発室は技術者として使い物にならなかった者たちの掃きだめと思われていた。その一員に自分がなるなんてプライドが許さなかった。

しかし、家族からの猛反対もあって辞めることもできなかった。数年の辛抱だ、そうしたらまた現場に戻れるさ、根拠はないが自分にそう言い聞かせて我慢した。

さて、そんな私だから、新しい部署での勤務態度はいいわけがない。ただ救いだったのは、部署の人達が意外にまともな人達だったということ。特に室長は、こんな私に対しても寛容に接してくれた(放置していたともとれる)。
また、裁量権はないものの、事務処理はそれなりにあり、日々作業をこなすことで気を紛らわせることはできた。もっとどんよりした職場かと思っていたので、少し心が軽くはなった。
しかし、用事で古巣の技術部に行かないといけないときは苦痛だった。できるだけ元の同僚とは目をあわせたくない。

そんなある日、ベテラン社員が1人退職することになり、補充で新卒社員が配属されることになった。平均年齢45歳の職場に、いきなりの新卒。しかも女性(事業部は90%が男性だ)というだけで驚きなのに、室長から新人のOJTリーダーを任命されたのだ。
もともと人と接するのは苦手なほうで、どうしていいかわからない。とりあえず業務に必要な最小限のことは伝えた。

新人のAさんは、地元に住む地域限定社員だった。とても朗らかでやる気に満ちていた。何か指導をするときは、目をキラキラさせてメモをとりながら熱心に聞いていた。
当然といえば当然なのだが、Aさんは、自分が配属された部署が"掃きだめ"だということを、全然わかっていないようだった。
私から見れば、なぜこんな場所でそんなに意欲的でいられるのか不思議でしかたない。逆にいうと、なぜこんなイキのいい人材がこんな部署にいるのか、もったいない気もした。

「事業部内のコミュニケーションを活性化する」それがその年度の室の課題だ。といっても例年似たようなお題目が掲げられる。やることは本社主催のコミュニケーション研修に人をアテンドするくらいなものである。
ある日室長は、Aさんに「予算をかけずコミュニケーションを活性化できることを考えてみてよ。リーダーが相談にのってくれるからさ」と無責任な指示をした。Aさんは張りきってしまい、私は「やめてくれ」と思った。しかし日を置かず、Aさんは企画書を作って持ってきた。
「お金をかけずにできることを考えました!事業部内で交流を図るために、研修も兼ねた仮装パーティをしたらどうかと思うんです。題して"なりきりパーティ研修"」

日頃パソコンに向かいっぱなしの技術者同士の交流を図り、表現力を高めよう、というのが口実(いや目的)だ。ハロウィーンの時期に乗じた発想である。

「こんなのやったってさあ、どうせ誰も参加しないよ。技術系はのりが悪いんだよ。ふだんの研修だって希望者が出なくて困ってるんだから」
(パーティだと!?冗談じゃない。俺はひっそりとしていたいのだ)

「......そうでしょうか。一石二鳥のいい案だと思ったんですけど」

さっきまで意気込んで話していた彼女が、私の冷たいフィードバックに意気消沈の様子。その顔を見ていると少しかわいそうな気もしてきた。というか多少の罪悪感を感じた。

「......まぁ、室長がいいって言えばいいんじゃない?お金かからないんだし」
そう言うと、またキラキラが戻ってきた。「ありがとうございます!室長にお願いしてみます!」

そう言って、また戻ってくるまで数分も経っていなかった。
「OK出ました!先輩に相談しながら一緒に進めなさいってことでした!」
おい室長!もっと吟味しろよ。Aさんを焚きつけて面白がってるとしか思えないぞ。

「そ、そう。じゃあ、がんばって」

「社員食堂の貸し切りって可能なんでしょうか?レイアウトも変えたいんですけど」
「ランチタイム終われば大丈夫じゃない?総務に聞いてみれば?」

「BGMのリスト作ってみました。どうでしょう?」
「いいんじゃない。それでやれば?」

「知りあいで売れないパフォーマーがいるんです。呼んでもいいでしょうか」
「お金かからなければいいんじゃない?」

そんな調子で、私は何もしなかったが、Aさんのアイデアと実行力でコトはとんとん拍子に進んだ。

そんなある日のこと、かつての同僚から声をかけられた。「なんか元気な新人が入ったね。××が面倒見てるんだって? 仕事を任せてくれるのでありがたいですーって言ってたよ。先輩、慕われてるじゃん」といって、ひゃっひゃっと笑った。こいつは昔からこういう嫌な笑い方をする。

「任せた」というと聞こえはいい。しかし度量があるのではなく逃げていたのだ。

Aさんには、「俺のライフワークは終業後なのであって、仕事中は仮の姿だから」そうウソぶいていた。その時は本当にそう思っていた。いや、そう思おうと思っていた。
技術者としてダメ出しされて、ただでさえプライドが傷ついているのに、こんな掃きだめの中で本気出してダメ出しされたら......。
そんな状況には到底耐えられなかった。

彼女はそんな私の心中など全く知らない。就職氷河期の時代にようやく就職できた会社で、純粋にがんばっている。
そんなAさんに対して、うざい気持ちがある反面、相談されるのを待っている自分もいた。どうせ「いいんじゃない?」としか言わないのだが、彼女は必ず私に聞いてくる。

なんとなく、会社に来ることが楽しみにすらなってきた。彼女のがんばっている姿は、微笑ましくもあり、うらやましくもあり、そして自分を情けなくもした。
だって私はあろうことか、新人の女性を盾にして、傷つくことから逃げているのだから。

イベントは予想を反して盛況だった。「この衣装、自前なの!?」とか「誰!?」という驚きに満ちていた。技術者のオタクぶりは半端じゃない。といっても最初は恐い物見たさのやじうまが多く、遠巻きで見物している人が多かったのだが、Aさんがぐいぐい引き込んで、メークしたり、うさぎの耳をつけたりするうちに、それらしくなってきたのだ。
一番驚いたのは、どさくさに紛れて室長が女装していたことかもしれない。

そんな日々から数年経った今、私は本社勤務になり、Aさんは地元の事業開発部で相変わらずがんばっている。
私はOJTリーダーとしても人間としても全くなっていなかったと思う。掃きだめなんて、最初からなかったのかもしれない。勝手に思い込み、勝手に落ち込み、やってもムダだと思っていた。私が腐りきらずに済んだのは、間違いなく新人のAさんの存在があったからだと思う。教えられたのは自分のほうだったと、いつかAさんに伝えたいと思っている。その勇気があれば。


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