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スポーツクラブインストラクターのOJT

先輩からの問いかけ

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スポーツクラブインストラクター(女性)  2015-08-25

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先輩からの問いかけ

私は、スポーツクラブで子どもたちに水泳を教えています。今は夏期集中トレーニング中ということもあり、教室は連日にぎわっています。そこにヒロシ君という小学1年生の生徒さんが通っています。
ご両親が水泳選手だったというヒロシ君は、同学年の中でも恵まれた体格をしていますが、性格的には気が優しくて恥ずかしがりやです。
お母さんはヒロシ君には将来アスリートになってほしいと思っているようで、ヒロシ君もその期待に応えるように、回数を重ねるごとにレベルアップをしていて、今では小学校2年生と一緒のグループで泳いでいます。
私の担当するグループの中でも期待の星です。本人も水泳を楽しんでいるように見えました。

ところが、ある日のことです。
開始時間を過ぎてもプールにヒロシ君が現れません。心配をしていたところ、ヒロシ君は泣きながらお母さんと一緒にプールにおりてきました。
理由を聞くと、「もうやりたくない!」の一点ばり。特に体調は問題ないようです。お母さんもどうしてよいか困っている様子でした。
「ヒロシ君、どうしたのかな」
「......」
ヒロシ君はしょんぼりしています。私は昨日あったことを思い巡らせてみました。
「あ、そうか。昨日息継ぎで水を飲んでしまったから、それで怖くなったのかな」
「そうなの?ヒロシ」とお母さん。
すると、ずっと黙っていたヒロシ君が、小さくこくりとうなずきました。
「そんなことで泣いてたら、水泳選手になんかなれないわよ!」とはっぱをかけるお母さんを、まぁまぁとなだめ、
「水を飲んだら苦しいよね。じゃあ、今日はクロールの息継ぎはやめて、バタ足とけのびの練習をしよう」そういって、1つ下のグループ(といっても同学年のグループ)で、基本練習をさせることにしました。
ヒロシ君はもともと素質のある子なので、息継ぎ以外はうまくできます。私は「そうそう、その調子、ヒロシ君すごいじゃない」と励まし、元気づけました。ところが、練習が終わってプールからあがってきたヒロシ君は、「もういやだ、やりたくない!」と、また泣き出してしまいました。
どうにかこうにかヒロシ君をなだめて、次回も来ることを約束して帰したものの、いったいどうしていいのか、さっぱりお手上げです。

そこで、事務室でA先輩に相談をしてみました。
「どうしたらヒロシ君が、また水泳を好きになってくれるんでしょうか?」
するとA先輩「ヒロシ君は水泳が好きなの?」と意外なことを言います。
「それはもう、この間までは誰よりも一生懸命やってて、とても楽しそうでしたよ。」
そばで聞いていたもう1人のB先輩が「子どもだから気が乗らないことだってあるさ、放っておけば?」と言い残して出て行きました。

「とっても素質のある子なんです。水泳を嫌いになってほしくないんですよね」
「それって、山本さんの気持ちだよね。ヒロシ君は、なんで、もういやだって言ったんだっけ?」
それは水を飲んだから......と言いかけて、はたと気づきました。
「ヒロシ君は......、今日は水を飲んでいません。なのに、なんででしょう」
私は、ヒロシ君の気持ちを何一つ聞いていなかったことに、今さらながら気づきました。子どもだから、こんなふうに駄々をこねることもある、そんなふうにしか考えていなかったかもしれません。

次回、祈るようにしてヒロシ君を待っていると、ヒロシ君はしぶしぶ現れました。
とにかく来てくれたことにほっとして、「ヒロシ君、よく来てくれたね。今日は練習を始める前に、少しお話ししたいな」と伝え、2人でプールサイドの隅に腰をおろしました。そしてこんなやりとりをしました。

「ヒロシ君は水泳が好き?」
「......うーん、わかんない。今は嫌い」
「そっかぁ、じゃあどうして教室に通ってるの?」
「水泳選手になるから」
「ヒロシ君は、水泳選手になりたいんだね」
「......ママがそう言うから」
「そっかぁ、ママのために頑張ってるんだね」
「......(こくり)」
「息継ぎ、苦しかった?」
「......ううん」
「そう、苦しくなかったの?どうして泣いちゃったのかな」
「......だって、息継ぎできないと水泳選手になれないでしょ」
「ママをがっかりさせたくなかったんだね」
「......(こくり)」
「ヒロシ君はママのことが好きなんだね」
「......(こくり)」うつむいたヒロシ君の肩がゆれています。

どうやらヒロシ君は、苦しかったから泣いたのではなく、うまくできないことが悔しくて、ママをがっかりさせたくなくて泣いたようなのです。翌日、また泣いてしまったのは、一つ下のグループに入れられて、子ども心に自尊心が傷ついてしまったからのようでした。
そんなことに全然思い至らなかった自分が、指導員として情けなくなってしまいました。

「ところで、ヒロシ君は何をしているときが一番楽しいの?」
「うーん......、ケーキを食べているとき」
「ケーキが好きなんだね、どんなケーキ?」
「チョコレートのやつ。大人になったらケーキ屋さんになっていっぱい作って食べるの」
「そっかー。ケーキ屋さんかぁ、いいねぇ」

そんなたわいない話をしていると、ヒロシ君、
「でもね、水泳もちょっとは好き」はにかみながらそう笑いました。

「ちょっとは好き?じゃあ、そのちょっとの分だけ練習しようか」
「うん!」
ヒロシ君は、いつも通り自分から2年生のグループに交じり、練習を始めました。そしてありがたいことに、A先輩がヒロシ君の息継ぎ練習をサポートしに来てくれました。
ばた足の途中で1回息継ぎをし、目標地点で足をついたヒロシ君はなんだか少し誇らしげです。

私が拍手をしながら「1回できたねー」というと、ヒロシ君は「まだまだだけどね!」なんて照れながら、でも嬉しそうな様子でした。


ヒロシ君が将来水泳選手をめざすのか、パティシエをめざすのか、私にはわかりません。ただ、今日ヒロシ君と話してよかったと心から思います。

私は、自分の仕事は子どもたちに水泳を好きになってもらうこと、と思っていました。今でもそう思っています。
でも、好きになるかどうかは子ども次第で、嫌いになったことを問題視するのは違うなと考えるようになりました。
好きになったり嫌いになったり、親の期待だったり自分の意思だったり......、子どもの心には、相反する想いが揺れ動いていて、それに自分なりに折り合いをつけながら成長していくのだろうと思いました。一時の揺れに過剰に反応することなく、でもその時の気持ちも理解しながら、指導ができるようになれれば......。私自身も揺れ動く毎日ですが、そんなことを思った一件でした。


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