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風邪が治るまでの間に

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素材メーカー(女性)  2006-05-11

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風邪が治るまでの間に

まだ新人だった頃、隣の商品企画課のY課長に気に入られ、私は突然異動になった。
期中に、しかも新人がその課に入ることは異例のことだったが、課長には可愛がられていたし仕事も面白く、私には何の不安もなかった。
ただ、このY課長とグループリーダーのXさんはソリが合わなかった。課長の奔放な行動に、実務家のXさんは辟易しているように見えた。私を引き入れたこともきっと面白くなかったのだろう。

2年後にY課長が異動になりXさんが課長に昇格した。それと同時に、私の置かれた状況も一変した。

年度の開発予算を組むために、例年2月に企画検討会議が開かれ、翌年度の開発案件と担当者が決定する。
「企画会議は2月5日」という案内があったので、その日は意識していた。
ところが私はその日の少し前から風邪をこじらせ、会議の前々日と前日を休んでしまった。当日の朝も熱は下がりきっていなかったのだが、1年間の担当が決まる大事な日だからと思って、無理をして出社した。

ところが、すでに企画会議は終わっていた。
風邪を引いて休んだその2日の間に、すべてが決まっていたのだ。
私が企画を提出していた案件は、なぜか後輩が担当することになっていた。
私に残されたのはハネ企画(当時、商品化の見込みの薄い案件や途中でとん挫した案件など、誰もやりたがらない企画はそう呼ばれていた)だけ。

私はすぐにXさんのところへ抗議に行った。
「企画会議は今日じゃなかったんでしょうか」
「ああ、急に別の会議が入ってね。他にみんなの都合のつく日がとれなかったんだよ、ごめんごめん」
私の風邪は都合の内には入らないらしい。『......外された』そう思った。
申し訳なさそうな表情の後輩と一瞬目があったが、彼はすぐに目を伏せた。他の同僚はみな下を向いて黙っていた。

その後、ときどき後輩達が私のところに相談に来たが、それすらもXさんは面白くなかったらしい。私と話している相手はすぐに「○○さん、ちょっと」とXさんに呼ばれて、いつも話は途中になった。

納得できないけどしかたない。私はハネ企画をやるしかなかった。
企画・設計した後は、試作品を作ってテストを行う。1つの案件はこれらがセットになっているが、試作品を作るのは、私が新人の時に少しだけ席を置いた試作課の役割だ。
企画担当者には必ず1人の試作品担当者がついて、ペアでテストを行うことになる。誰が誰の試作担当になるかは、企画課の課長と試作課の課長が話し合って決めることになっていた。

企画課のメンバーが皆それぞれに試作品担当がつく中、私の案件を担当してくれる試作品担当者はなかなか決まらなかった。Xさんが動いてくれないからである。

私は何度かXさんにかけあった。「私の案件の試作品担当は決まったんでしょうか」「あ、それね、もうちょっと待って」と、何度聞いてもこの調子だ。
4度目の催促のとき、やっと彼は面倒くさそうに「牧田さんにやってもらうことになったから」と答えた。

牧田さんとは試作課のグループリーダーだ。いくつかの企画を掛け持ちで担当しているらしい。恐らく引き受け手のない私の企画を無理矢理牧田さんに押し込んだのだろう。試作課の担当者にしても、できれば花形案件を担当したいものだ。ハネ企画は避けて通りたい。牧田さんとしては貧乏クジを引かされたといったところだろう。

通常、ペアが組まれると試作課の担当者が工程表を作成することになっている。しかし、待てど暮らせど牧田さんから工程表はあがってこなかった。
Xさんは本当に牧田さんに言ってくれたのか?Xさんに再度確認すると「牧田さんには伝えてあるから」と言う。
「でも工程表がまだ出てこないんですけど」
「彼忙しいからなぁ、ほら○○くんの大型案件とかも掛け持ちで担当してるから」と。
ああ、そうですか、ならわかりました。私はハネ企画を握り締め、わなわなする心のままきびすを返して試作課に向かった。

試作課のドアを開けてまっすぐに牧田さんのデスクに向かうと、「牧田さん、これお願いします」手に持った企画書をぶっきらぼうに牧田さんの机に置いた。
その言葉には間違いなく険があったはずだ。牧田さんにしてみればとんだとばっちりというものだろう。
急に企画書を差し出されて「え?」と見上げたその顔に向け、「牧田さんが担当だと聞いていますから、早く工程表を作ってください」私は乱暴にそう言い放った。
「なっ...」牧田さんの顔が怒りで紅潮するのがわかったが、その後の牧田さんの言葉を待たずに部屋のドアをバタンと締めて出てきた。ドアの向こうで牧田さんが何やら文句を言っているのが聞こえた。

私はほとほと情けなくなり、泣きたくなった。
なんでこんな惨めな思いをしなければいけないのか。牧田さんには別に恨みはない。わかってる、そんなこと頭ではわかってるけど、こんな気持ちのまま普通に接することができなかったのだ。
そのときは、試作課全員がXさんと一緒になって私をあざ笑っているように感じてしまい、試作課の部屋に普通に入っていくことすらできなかった。こういうやり方でしか話せなかったのだ。
私は、Xさんと言わず、試作課と言わず、何より自分自身に対して、全身嫌悪感でやりきれなかったのである。

そんなちょっとしたトラブルがあって、試作課からXさんに苦情が入ったらしい。
Xさんにとってはいい口実だ。私のメイン担当は課内の庶務と小口現金管理に替わり、兼務としてハネ企画だけは続けてもいいことになった。
担当替えと同時に席も変わった。私の席は島から外され、ドアのすぐ近くにぽつんと置かれた。後輩達より末席も末席、最末席。というか離れ小島だ。
こんなところにデスクが置かれたことなんか、今だかつてないだろうな。
『つぶしにかかってる......』私は怒りを通り越しておかしくすらなってきた。この時、こんなことでは絶対辞められない、とも思った。

そういう仕打ちは私を打ちのめしもしたけど強くもした。
私はハネ企画でもクズ企画でも何でもいいから実績を積み、そんな嫌がらせを受けなくて済むほどに力をつけようと思った。辞めるのはそれからでもいい。
ある意味、Xさんのやり方は私を鍛えるためには功を奏したのだろう。その時の経理の知識も後々役に立った。
まぁ、そういう計算のうえでの教育だったとはとても思えないけど。

やがてXさんは異動になり、私は2年かけてそれなりの成果をあげ、希望の仕事と相応のポジションを手に入れた。

その間、Xさんも昇進していた。
ある年、私は再び巡り合わせでXさんの部下となったが、その部署ではXさんの評判がいいのに驚いた。なんでも、理解のある上司だそうだ。へぇぇ〜〜。

Xさんの私に対しての態度も変化した。多少の引け目もあるのだろうか、どちらかというと媚を売るような態度に出てきた。
客観的に見て、当時の私を敵に回すことは彼にとって得策ではないだろうとは思ったが、私はすぐには警戒を解かなかった。
しばらく観察すると、私を含めてコントロールしづらい人間に対する態度と、コントロールしやすい人間に対する態度とでは、うまい具合に使い分けている。総じて評判はいい。私だってあの一件さえなければ、こんな穿った見方はしていなかっただろう。もっと純粋に「ああ、Xさんって物分かりがよくていい人だわ」と思ったにちがいない。

実際、政治上手で頭のいいXさんの下は、課員にとって悪い環境ではなかった。
尊敬はできなかったが、上司としてはよかったのかもしれない。安定した環境で仕事に集中さえさせてもらえれば、わだかまりは徐々に薄れていった。

あの人はいい人だとか悪い人だとか人格がどうとかこうとか......、そんな他人の評判を私は鵜呑みにしないようになった。
置かれた立場と環境で人は変わる。いや、本質はどうあれ周囲から見た人格というやつは変わりうる。心理的に不安定な状況に置かれては、普通に自然に振る舞うこと自体が難しい。
当時の私がそうであったように、ひょっとしたらXさんも不安定な立場と心理状況だったのかもしれない。

私たちは普通に話すことができるようになった。お互いにあんな一件があったことなんかまるで忘れ去っているかのように。
もしあの時会社を辞めていたら、私の映像はあの場面で切り取られ、それ以上先に進むことはなかった。
でも時間を経てこうして関係は変化してきている。そのことの不思議、時間の威力をつくづくと感じた。

OJTのケースという趣旨からは少し外れてしまったかもしれない。
でも、上司の立場であれ部下の立場であれ、ある一面だけで、その時の行動だけで安易に人を判断してはいけないということは、その後部下を持つ立場になった自分への戒めにもなっている。


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