No.35

OJTで効果を上げるためのマニュアルとは

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公開日:2009年 06月 23日
更新日:2021年 06月 01日

業務マニュアルに求められる主な機能は、おおよそ以下のように分類されると思います。

  • 実務を行うための手引き
  • 指導・教育用のツール
  • 管理・監査用のツール

同じ内容であっても、どのような目的で使用するかによってマニュアルの作り方は異なりますが、今回は「指導・教育用」に焦点をあてて考えたいと思います。

新人などの未経験者を一人前の業務担当者として育てるためには、どのようなマニュアル類が必要となるでしょうか。

業務指導のための3つの要件

まず、職場で業務を指導するためには、以下の3点について準備しておくことが望ましいと考えます。

1. 業務内容が整理されていること

職場における個々の業務が定義づけられており、業務相互の関係性が体系的に整理されていること、そして個々の業務が標準化されている必要があります。
この機能を果たすものを「業務マニュアル」と呼ぶことにします。

2. 業務に必要なスキルをトレーニングできる状態であること

業務を行ううえで必要なスキルが洗い出されており、それぞれについて、何を使ってどのように教えるか、という指導要領があること、そして指導を受ける側にとっての教材・素材が準備されている必要があります。
この機能を果たすものを「トレーニング・ツール」と呼ぶことにします。

3. 育成目標・指導期間・関わり方について指針があること

業務担当者として、いつまでにどの程度のレベルになってほしいか、その間に指導者はどう関わるか、についての指針が必要です。
この機能を果たすものを「OJTマニュアル」と呼ぶことにします。

弊社では、上記1~3の機能を果たすものとして、「業務マニュアル」「トレーニング・ツール」「OJTマニュアル」としていますが、呼び方は何であっても構いません。
この3種類のマニュアルのそれぞれについて、OJTの効果を上げるためにはどうしたらよいか、作成上の留意点を紹介しましょう。

OJTで使える「業務マニュアル」

実務を教えるには、業務そのものが整理されていることが大前提です。業務が未整備のまま指導を行うと、「指導者によって言うことが変わる」という事態を招いてしまうからです。
そしてOJTで使えるためには、「概要」と「詳細」の2つの視点から活用できるものであることが望ましいでしょう。

1)概要について

作業手順書のサンプル

業務の概要とは、業務全体の位置づけ、個々の業務の意味と概略、業務を動かすための役割体制やシステムの構成など、業務全体を鳥瞰するものです。業務が体系化されていないと、概要をわかりやすく伝えることは困難です。 新人などの指導対象者が職場に配属(異動)されたら、最初にこの概要部分を指導するようにしてください。指導する側にとっては業務を再確認できますし、学習する側にとっては理解のためのスキーマを得ることになります。また概要部分を共有することで、その後の指導が進めやすくなります。
もし概要を理解させないまま詳細な手順だけを覚えさせると、「応用が効かずイレギュラーに対応できない」「自分で考えようとしない」などというマイナスの教育効果をもたらす危険が大きくなるため、注意が必要です。
もちろん理解の仕方は人によって異なります。大枠を押さえてからでないと詳細を理解できない人もいれば、詳細な経験を重ねる内に大枠が描けてくる人もいます。しかしいずれにしても指導としては概要から入るべきでしょう。あとは学習者が理解の仕方に応じて、必要なときに概要を参照できるようにしておくことです。

2)詳細について

ところで概要に対しての詳細部分とは、各業務項目ごとの作業手順やそれを行うための判断基準、注意事項などです。「業務マニュアル」という場合、通常はこの詳細部分を指すことが多いようです。
教育的な使用を重視するならば、詳細についても基本と例外とを切り分けて、理解しやすいように整理しておきます。基本部分の内容は、「基本的な処理なら自力でできる」状態をサポートできるレベルを目指しましょう。
そして一通り業務をマスターした後は、基本よりも例外処理を参照することのほうが多くなるはずです。OJTのプロセスに応じて、段階的に使いやすい作りを工夫してください。

基本スキルの「トレーニング・ツール」

作業手順書のサンプル

業務を担当させるためには何らかの訓練が必要です。いきなり本番というわけにはいきません。
例えば営業職の場合は、客先に出る前に商品知識を習得したり、標準話法やパンフレットを使ってロールプレイングをしたりする必要があるでしょう。
事務職であれば、ダミーデータを使ってシステムの操作方法を学んだり、素材を使ってアプリケーションの練習をしたり、事例を用いて電話応対の練習をしたりすることでしょう。
そこで、個々の業務項目ごとに必要な作業項目/要素作業を洗い出し、指導する側、される側にとってのトレーニング・ツールを整備しておくことをお勧めします。
指導者用のツールとしては「レッスンプラン」や「インストラクション・マニュアル」と呼ばれるものがこれに該当します。
基本スキルとして設定する範囲は、仕事の性質に応じて作業項目単位でも要素作業単位でも構いませんが、以下の内容を明らかにしておくとよいでしょう。

  • スキルの範囲設定
  • 指導時間の目安
  • 練習素材・教材(パンフレット、ダミーデータ、練習用素材、テスト、業務マニュアル、作業標準書など)
  • 指導手順・方法
  • 期待レベルと測定方法(テスト、チェックリスト)

実務に詳しいことと人に指導できることとは別ものですから、指導効果を上げたいのであれば、面倒でもこの準備をしておくべきでしょう。
もし初期段階で下手な指導を受けてしまうと、仕事に対して苦手意識や嫌悪感を持ってしまうこともあります。後になって、このマイナス体験を覆すのは容易ではありません。最初に「わかる、できる、面白そう」と思ってもらうことは何より大事です。そのためにもトレーニング・ツールを用意しておく意味があります。

戦力になるまでの「OJTマニュアル」

作業手順書のサンプル

さて、一定期間に業務担当者として戦力となってもらうために、成長のプロセスをコーディネートする必要があります。そして指導者には教え方や関わり方のスキルが必要です。これらをまとめたものを「OJTマニュアル」と呼びます。
イメージとしては、具体的な実務を指導するトレーニング・ツールが図中の"面"を扱うものであるのに対し、OJTマニュアルは"時間軸"を重視します。つまり、業務担当者として戦力になることを達成目標として、そこに至る段階や関わり方を解説するものと位置づけます。

OJTマニュアルとしては、主に以下の内容を整理するとよいでしょう。

  • OJT計画(期間設定、最終到達目標、節目ごとの到達目標、期間中の課題)
  • 指導項目の組み立て
  • 指導プロセスと指導スキル
  • 期間中の対応

*具体的な例はTips29「OJTマニュアルの目次サンプル」でも紹介していますので参照してください。

職場でのOJTが必要と考えるなら、ぜひとも以上の3つのマニュアルを準備してください。
実際にすべて揃えている企業は少ないかもしれません、もしあるとしても「1.業務マニュアル」は現場(事業部門)で作成している、「2.トレーニング・ツール」は実務担当者が個人的に作っている(かもしれない)、「3.OJTマニュアル」は人事部が作成したものがある、といったところではないでしょうか。
せっかく作っていても、1、2、3が連動されていないと効力は半減してしまいます。事業部門と人事部門が連携し、1、2、3を連動させ、それぞれの使用方法とタイミングを職場で共有することで、さらにOJTの効果を高めることが可能だと思います。


OJT実践ノート

author:上村典子kamimura

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