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大口定期預金

更新 2015.04.24(作成 2015.04.24)

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第7章 新生 58.大口定期預金

「そうだろ。次に、同じ日に100万円を9年間で頼んだらこれも受けますよね。8年だったらどうですか。これを10年間積み重ねたら階段状の定期預金の形ができるじゃないですか。断りますか」
「いや、それはやらせてもらいます」嬉しそうに答えた。
「そうだろ。それじゃやってくれますね」
「わかりました。定期預金でよろしいのであればやらせてもらいます」
「うん。それを1カ月きざみでやれば完璧じゃないですか」
「えっ。1カ月単位ですか」
「そうですよ。それでないと年金にならないじゃないですか」
「それは無理ですよ。1カ月単位の定期預金なんてできませんよ」
やっと解決の糸口が見えて喜んだのも束の間だった。
「そんなことあるもんか。6カ月定期とか1年定期とかあなた方が勝手に作ったんでしょ。それじゃ1カ月単位があってもいいじゃないですか。1カ月単位といっても半年後には6カ月定期になるじゃないですか。動かない金だから半年じゃ、1年としているけど、この金も少しずつ減ってはいくけど10年間動かないのです。あなた方がやらなくて、もしよそがやるといったら持っていきますよ。年金みたいにシェアなんかしませんよ。10億みすみす持っていかれてもいいんですか。なにやってんだと怒られませんかね。いえ、10億の預金を取る取らないではなく、私たちの手伝いをできなかったことで怒られませんか」

銀行の商品は期間や金利に法的縛りががっちりとかかっていると思われているかもしれないが、実際には銀行の裁量の中で作られた一企画商品なのだ。調達コストと貸出金利の利ザヤ(業務収益)の中でいろいろなアイデアを出して一つの商品として企画している。広島銀行などは「カープ応援定期預金」と称し、カープの勝率や順位に連動した金利を上乗せするユニークな商品を出している。今年は優勝の前評判が高く、黒田人気も手伝ってこの商品が昨年度の5倍のペースで売れているそうだ。もみじ銀行も「カープV預金2015」を出している。
このように額や期間など預金の性質によって一応の基準金利(銀行窓口に表示してあり、毎週更新されている)を設定しているが、本質的にはファンドごとに銀行独自で設計できるのだ。従って同じ定期預金でも似かよってはいるものの銀行によって微妙な差がある。もっとも、昨今のように貸出金利が低い場合は当然預かり金利も高く設定するわけにはいかない。それに企業の資金調達方法も多様化し、市場から直接調達するようになって銀行ばかりに頼る時代ではなくなっている。

「うーん。ちょっと持って帰っていいですか。一存ではお答えできかねます」
梶原は、追い詰められ答えに窮した。
「いいですよ。頑張ってみてください。梶原さんならできますよ。年金コンサルのエースじゃないですか。会社も無理を聞いてくれますよ」
「そんなこともありませんが……」
梶原はおだてとわかっていて手を振ったが、まんざらでもない顔をしていた。
「それからね」
平田が次の要求を用意しだすと、まだ何か言われるのかと梶原の照れ笑いの顔がこわばった。
「まだなにか」
「うん。これってさ、普通の定期預金金利じゃないよね」
「どういうことですか」
「つまり大口定期預金金利を適用してもらえませんかね」
「えー。だって3千万円を丸々お預かりするわけじゃありませんよね。何カ月単位に分割しますと1口座は数十万円単位になりますからとても大口定期にはなりませんが」
「大口っていくらからですか」
「1千万円からです」
「それじゃ一人3千万円ですから十分じゃないですか」
「しかし1カ月単位の小口にわけるのでしょう。一般定期預金じゃいけませんか」
「そんな小さい単位で考えるからですよ。もっと大きく括りましょうよ」
「しかし、月々支払いをしていきますと残高も減っていずれ1千万を切ります。それを大口定期で預かるのですか」
「いいじゃないですか。1千万を切っても30人まとめて考えれば3億あるじゃないですか。そもそも10億のファンドですから最後の1カ月でも8百万円の残高があります」
平田はそう言いながらすばやく電卓を叩いて÷10年、÷12ヶ月をはじいてみた。
「この支援制度の仕組みとして捉えてほしいんです。それでこの支援制度になるんです」
「うーん」
梶原は、銀行内で設計できるとはいえ、規則や決まり事でがんじがらめの銀行システムの中で、こんな大胆な考えに与する発想は難しかった。
「とにかく持ち帰らせてください」
「はい。よろしくお願いします。どうしても私が聞かないんだと言ってもらっても構いません。怒らせたら何をするかわからんって。下手をしたらシェアも落とされるかもしれません、くらいのことは言ってもいいよ」
新田から「脅してもいいぞ」と言われていたことを、平田は梶原を介して間接的に本社への恫喝にした。
「いやいや。そんなことは言えませんけど、まずは支店長です」と言いながら、梶原は神妙な顔をしていた。
「いいんだよ。それくらい言わなきゃ本社の頭でっかちの奴らの考えは変わらんよ。やってください」
「はい。わかりました」
「それから、厚生省の根回しはどうなっておりますか」
「はい。一応原案を投げて打診しております。今のところ特に問題はなさそうです。いずれ御社の内部が固まりましたら正式に申請いたします。その時は基金の常務理事と副社長あたりに東京にお出かけいただいて厚生省の担当官にお会いいただくことになると思います」
「わかりました。よろしくお願いします。それじゃ後は年金化のことだけですね。しっかり本社を締め上げてください」
「はい、わかっております」
そう言われて梶原はそそくさと帰って行った。

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