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やれなければ交代

更新 2014.05.15(作成 2014.05.15)

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第7章 新生 24.やれなければ交代

「俺たちはこのことばかりをやっているんじゃないぞ。俺たちは市場で勝つことが最大の仕事だ」
「それはわかります。しかし、このことは社長がわが社におられる時からの課題ですし、専務として方針を決定してこられました。方針は決めたがやるのはできんでは筋がとおりません。専務としてわが社のNo.2でおられた方ができない方針を決定されたことになります」
「中国食品が独自でやる分には大いに結構。しかし、関係会社の実態を誰も訴えなかったし、考えなかった。これは実務の失錯ではないかね」
「お言葉ですがそれは順序が逆です。やれるかやれないかで方針を決めるのではなく、今何をやるべきかで方針は決まるものだと思います」
「そのとおりだ。そんなことは俺だってわかってるさ」
堀越はかなり苛立っていた。平田の小賢しさが癪に障ってしょうがない様子だ。
「しかし、関係会社の実態を見たとき、俺はできないと思った」
堀越は自社組織の脆弱さを言っている。スタッフは5人しかおらず、中国食品本体からいわゆる外されたと言われるような人材が大勢だ。しかし、そうした人事は自分も進めてきたわけであり、その皮肉なめぐり合わせを平田にぶつけているのだ。
かって川岸が言っていたことがある。
「いくらその部署が大事だからと言ってそこにばかりに優秀な人材を集めてはだめだ。万遍なくバランスよく配置しないと全体の組織力は上がらない」と。
それは親会社と関係会社の関係についてもいえることであるが、スペシャルエースを出すには処遇格差が邪魔をする。そのため、エースを出すときは大体ワンランク上のポジションを用意するものだ。しかし、それでも処遇の天井の高さがやはり邪魔をする。
その弊害を克服するには片道キップではなく、往復できる仕組みがいい。関係会社を含めたトータル人材管理システムが望ましい。関係会社で処遇が窮屈になれば本体に戻せばいいではないか。逆出向、逆転籍もあっていい。だた、こうした発想は本体のトップにはないのが大勢だろう。
堀越は以前にも評価のことで平田にクレームをぶつけてきたことがある。
5名の統括部長、10名の統括部課長、45名の所長、30名の副所長、その上営業本部の20名の管理職、それらの1次評価、2次評価をこなさなくてはならなかった堀越は、
「これだけの人間を俺一人でやるんだぜ。そんなに急がされてもできるわけがない。イメージ評価になってしまうがそれでもいいのか。俺は彼らに責任があるんだ」
と、平田にきつく迫ったことがある。
部下や組織のことを深く考える堀越ならではの苦悩であり、それを推し進めなければならない職責との狭間でのジレンマであろう。平田は、堀越の苦悩がよくわかった。だから評価の時には堀越の付けた評価点を、ウェイトを掛けたり、集計したりするのを手伝った。
しかし、そこを乗り越えて行かなければならないこともあるのだ。
「社長。やれるかやれないかの議論ではないと思います。個人の能力ならやれる、やれないがあります。やれなければ交代するしかありません」
平田は隣の人事課長にも覚悟を迫るような言い方をした。
「しかし、これは組織の課題です。個人の能力を超えた経営課題です。何としてもやらなければならないと思いますが」
「どうやってやるんだ。本体が手伝ってくれなければできるわけがない。君は何をしてくれる」
「はい。プロジェクトには私も参加させていただきますし、コーディネーターには藤井さんをお願いしております。既に予算措置も済ませております。しかもこのことは、3月の時点で課長のほうにはお伝えしてございます」
「ウン。そうなのか」という様な意外な顔を堀越は見せた。
「よし。わかった。もういい。帰ってくれ」
堀越は、3月の時点で伝えてあったということに自分たち側に落ち度があることを悟った。そうしたことを知らせてこない課長に“それがうちの実力なのだ”と改めて自分に言い聞かせた。
「それじゃ、やっていただけますか」
「わかったと言ってるだろ」
「ありがとうございます。しかし、まだ社長は怒っておられます」
平田は堀越が本気で自分を理解してくれていないことを嗜めた。
「わかった。元々俺の顔だ」と、その指摘に堀越も少し表情を軟化させた。
それを見て平田もやっと腰を上げた。
この議論で、平田は俄然闘志を湧き立たせた。新田に火を点けられた元気がやっと昔の熱さを取り戻し始めたのだ。
このまま、新田の後ろ盾とプロジェクトの順調な滑り出しがあれば、平田は元の元気を取り戻す。
社長室を出ると人事課長の原は、「メンバーの選定と説得をどうしたらいいですか」と尋ねてきた。
平田の意向を反映したほうがいいと思ったのだろうが、平田にしてみれば「今更かよ」の感は拭えなかった。堀越の苦悩が手に取るようだ。
「それじゃ、チョット座りましょうか」と課長席の脇に座り直した。
「課長はどの様にお考えなんですか」
「そうですね。各部門から階層ごとに出していったらいいとは思うんですが、どんな人がいいのかなと思うんですよ。それがチョット悩ましんです」
「それでいいんじゃないですか。私は営業から一般職、監督職、管理職の3名にし、本社から女性1名、監督職1名にすると、それに課長がおられますからちょうどバランスがいいと思います。その中で、成績も優秀で自分の主張を持っている人に絞っていけばいいでしょう」
平田は敢えて成績優秀な人と注文を付けた。そのほうが成果主義、実力主義の人事制度に誘導しやすいと思ったからだ。
そんな平田の意図には気づかないようで、原はうなずいていた。
「それでどう説得したらいいですか。みんな自分の仕事が忙しいからなかなかウンとは言ってくれないんですよ」
「そうかもしれませんね。自分の成績とは関係ないですから、あまり関わりたくないところでしょう。それに民意とかけ離れた制度になったとき、みんなに怨まれるのはいやだから……」
「そういうこともあるんですか」
原はそんなリスクもあるのかと少し尻込みを見せた。
「制度構築は、組合や議会のように民意を集約して民主的に多数決で決めていくようなものとは違います。会社のため、将来のためにどうするのがいいかをとことん突き詰めて、自分の信念に従って作っていくものです。何が問題とか現実はどうかというのは、広く意見を聞いたりアンケートを取ったりとかはあると思いますが、それらを参考にどうするかは自分自身です」
平田は、家に火をつけるぞと言われたことを再び思い出し、その眉間に皺を寄せた。平田の心にそれほど深く傷を残した強烈な一撃だったのだ。
「まあ、会社の将来を左右する大事な仕事であること。そこに関われる名誉は誰にもできないこと。本業以外でも会社に貢献できることがあるってこと。それらをしっかり訴えて、最後は社長名で業務命令ですね」
「それはあんまりしたくないんですよ」
「それはわかりますが、そんな悠長なことを言ってられないでしょ。ならば自分でしっかり説得するしかありません」
その優柔不断が時を無駄に費やすんよ、と少し腹が立った。
「まあ、そんなことで頑張ってみてください。お願いします」
と後を託した。

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