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策士、策…

更新 2013.04.05(作成 2013.04.05)

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第6章 正気堂々 77.策士、策…

「外人さんは、含み経営なんかは当てにしない。正味の株主価値を要求してくる」
「そうやな。事業に対する考え方が根本的に違う」
「マル水も会社がデカイから外国資本の洗礼を受けたってわけですよ。結果として、財務偏重の含み資産経営が通用しなくなり、ROE(資本利益率)を重視せざるを得なくなった。だけど俺に言わせれば、そんなこととは関係なしに利益を追求するのは経営として当たり前ですよ」
「なるほどそうか。だが、どっちにしても今の事業モデルのままではそれに応えられないってわけやな」
「そういうことです。だからなりふり構わず事業のリエンジニアリングをやろうということになったんですよ」
「それには財務部門も対象になるわけか」
「当然でしょう。それなくしてリエンジニアリングはできませんよ。全ての資本財、人、金、土地、知的財産、なにもかもが対象です。全てを見直して不要は切り、有望なところには集中投資するというわけです。配当頼みの投資なら資本を回収してM&Aでもなんでも成長分野に直接投資したほうがいいと考えるのは、資本の論理としては当然じゃないかね」
「なるほど。だから我社への投資スタンスにも変化があるだろうというわけか」
「そういうことです。ただ、そこまでやるからにはトップも代わらなきゃ上手くない。経営も対象というわけではないでしょうが、入れ替わった」
「なるほどそうか。じゃが、なんか負の荷物だけ押し付けて自分は責任のないところに逃げ込んだという印象が残るなー」
「さすが、いいとこつくねー」
坂本は、俺もそれが言いたいのだとばかり大仰に持ち上げた。
「ちょうど交代のタイミングではあるが、これだけの大仕事が条件ならなんか割り切れなさが残る交代やね」
「そうなんよ。ヒーさんの言うとおりよ。そのスキがあったらばこそグループ加入できた」
「なに?それ。どういうこと?」
「つまり、相手がそこまでやろうとしているからには当然我社にもなんらかの火の粉が降ってくる。どんな経営戦略を立ててくるのか、我社にはどんな要求が来るのか、来てみにゃわからんようでは1600名の社員が戸惑うでしょう。どうせやらにゃいかんのなら、いっそ懐に飛び込んだほうが手っ取り早いというわけです」
「なるほど。それはわかった。トップの交代はどうなったの」
平田は、坂本が自分の考えに陶酔し話がすり替わりそうなのを軌道修正した。
「加入するためには尋常なことでは難しい。ずーっとそれでやってきたからね」
「うん。うん。それで」平田は先を促した。
「それで、関連会社政策として今後大きく変更があるようなら我々組合も連合会に参加させておいたほうが便利じゃありませんか、と突付いたわけですよ。我々だけ蚊帳の外に置いておいて、いきなり後ろから袈裟懸けってことはマル水の経営ポリシーに反しませんかってね」
「なるほどね。さすが。それで相手は誰よ」
「そりゃ関連企業課ですよ」
「あっ、そうか」
単純な答えだが、少し難しく考えすぎていた自分を笑った。
「ただ、それだけじゃインパクトが弱い。それだけじゃ動かんと思ったから、さっきヒーさんが言ったようにトップの交代として少し違和感がありますね、と付け足しといたわけですよ」
「なるほど、そうか。読めた。さすが、見事や」と感心してみせて、
「それで、双方の思惑が一致したというわけやね」と平田は繋げた。
「どう。うまいやろ。こういうの俺は得意やからね」
坂本は破顔満面で自画自賛し、無邪気に笑った。
「それでどうなった。返事があったわけやろ」
「あそこの組合から、これから世の中大きく変わりそうだから、お互い情報を交換しながら一緒にやりませんかってきたわけよ」
「なるほどね。関連企業課が組合を動かしたわけやね。しかし、よくそこまで考えたね」
2人はしばらく称え合いながら仲良く楽しんだ。
「ね。ヒーさん。面白いやろ」
「まあ、よくやるよ。普通に加入させてくれではやっぱりだめなのかな」
「そりゃだめでしょう。だってこれまでの歴史がそうさせない。会社側も組合もその気にならにゃいけんからね。なにか殻を破るにはそれなりのインパクトが要るってことですよ。世の中そう簡単に動くもんじゃないよ。啐啄同時、啐啄同時」
と、坂本は無理やりこじつけては一人悦に入っていた。
「うん。まあ、それはそうだけど。しかしそれってさあ、やはり裏目に出た場合のリスクもあるわけだろう。それを押しての価値があるのかね」
「さあ、それですよ。面白いね」
坂本は両手をこすり合わせ、ワクワク感を溢れさせながら面白がった。
一変、真面目顔に改まると、
「これはほんの地ならしです。俺の本当の目的は他にあるんよ」
「エッ?本当かね。まだ何かあるの」
“他の狙いとはなんだ。マル水の組合連合会に加入するだけでも至難の業なのに、まだ他に狙いがあるのか”
平田はマシンガンのように次から次に打ち出されてくる坂本の戦略に少し呆れた。同時に策士、策に溺れなきゃいいがと心配もした。

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