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納得いかず

更新 2016.04.01 (作成 2005.07.15)

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第1章 転機 17.納得いかず

「人員もこんなに要らないよ。もう15人は削っていいな」
「しかし、この規模の工場で製造しようと思えば最低でもこれくらいは必要かと思います」
「いや、要らない。そんなに造らないよ」
「えっ、造らないんですか。それじゃ、前提条件が全部違ってきますが」
「そうじゃないよ。結果として造らないと言ってるんだよ」
「……」
平田は意味がわからなかった。
「まあ、いいから。原材料の単価と人員についてもう一度見直してみてくれ」浮田は、突き返すように言い放った。
平田はどうしようもなく、山本のほうに目をやった。
ここまで一言も発しなかった山本だが、ここが潮時と見て
「わかりました。もう一度やり直してみます」と返事をしておいて、 そして平田のほうを向き、
「まあ、もう1回検討してみよう」と未練がましい目で自分を見つめる平田を促し、その場を離れた。
10億もの赤字を出すような投資を、会社も社員もごまかしてやろうと言うのか。何のメリットもないではないか。それどころか、利益が出なければ株主や社員への配分が当然減ってくる。苦しむのは社員である。

人もいろいろである。浮田のように200名近い製造部門を束ねるだけの統率力を持っていても、その力を発揮する方向を間違えたら害を振りまくだけでなく、会社を危うくすることだってありうるのである。
ある程度のグループをまとめるだけのリーダーシップを持ちながら、自分の都合だけを考える人は結構いるものである。監督職程度までならその上の者がなんとかコントロールできるが、管理職クラスにまで上がると害も目立ってくる。
下手にリーダーシップを持っているだけに、気の合う者だけを集めた自分の島を作ってしまうのである。そうすると、他の者はやる気をなくしてしまう。
しかし、彼らは本当は弱い人間なのである。不安でしょうがないから、誰かしらグループを組んで心の拠りどころにしているのである。自分の実力も知っているから、徒党を組んで対抗しようとする打算的結合なのである。それだけに下手に扱うと不満分子となり、集団の力を利用して上司や会社に圧力を発揮するようになる。願わくば志で結び付いてほしいものである。
こうした集団は、人事としてもシビリアンコントロールがきかなくなってくることがある。
例えば、研修に部下を出す場合も業務多忙を理由に出させない。
「業績を上げることが一番の教育だ。自分が日々教育しているからいい」などと、勝手な理屈を付けるのである。
人事として、このような人物が一番扱いに困るのである。
業績はそこそこ出してくる。職場もそれなりにまとめている。しかし、何かしらおかしなことをするのである。
評価項目で減点するにも、「物事の考え方」「部下育成」など、該当する項目が少なく、一つひとつのウェイトは小さなものである。
組織から排斥するのは非常に難しい。
管理職への登用や昇進基準に一工夫加え、ここに来る前に、手を打っておかなくてはならない。

平田にしてみれば、スッキリしない。
“やり直すのは俺だぜ”
席に戻っても納得がいかないので、ふてくされていた。
「まあ、常務がああ言うのだからもう一度見直してみてくれんか」
山本の立場としては、そうとしか仕方がなかろう。平田もそれはわかるのだが、「もう少し援護射撃があってもいいじゃないか」と恨めしげに山本を睨み返した。
結局、その日は全くやる気がせず日がな一日ブラブラして仕事をしなかった。
暇つぶしに、経理の野木善信課長のところへ遊びにいった。
野木は、平田の経理の先生である。平田が、工場の原価計算や損益計算の仕組みを構築していく過程で、いろいろと経理のイロハを教えてくれた。
平田が、経理や財務のことについてビジネスマンとしてある程度通用するのは、この当時野木に鍛えられたからである。
平田が工場の損益計算の仕組みを構築する昭和53年は、ちょうど第二次オイルショックの頃である。野木はまだ係長だったが、1年前の昭和56年に課長に昇進していた。
平田は、実力や物の考え方、人あたりの良さなど、どれをとっても当然だと思っている。自分の認める人が昇進するのは、素直に嬉しかった。
また、2人は工場の損益計算を作るにあたって営業との移受管価格の設定を画策した仲である。
移受管価格は、低く設定すると製造部門では利益が出なくなり、営業部門に多く利益が出るようになる。適切なところを設定しなければならない。
同じ社内のことだから、1円2円どっちに振れても大して違わないと思うのだが、それぞれのトップはこの価格にこだわった。
小田が社長になる1年前のことで、営業のトップは小田専務であった。
この小田と浮田が、移受管価格について我田引水な言い分を繰り広げるのである。

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